#5 石ころの結末Ⅱ

 わたしは二人の過ちについて思考する。

 二人は選択を過った。では何を選び、何を選ばなかったのか?

 それはわたしには分からない。きっと、亡くなった二人だけにしか――いや、当の二人にも分からないのかもしれない。わたしに分かることは、二人の骨のかたちと、死んでいること、そして過った選択をしたということ――それだけは目の前に転がる二人の結末が証明している。

 二人は、死ぬ前には生きていて、いまは死んでいる。肉は朽ちて白い骨だけが遺っている。どうして死んだのかは分からないが、襲われたわけではなさそうだから、わたし自身に危険はないことは分かっている。遺品がないかと周囲を探してみたが、纏っていた衣服であろうボロ布以外にそれらしいものはなかった。

 つまり、二人の遺体は、今のわたしに何も特別な意味を持たないはず。

 路傍に落ちている石ころと同じで、気づかずに蹴り飛ばしたところで何を思うでもなく、そのまま目もくれずに通り過ぎてゆく――そんな無価値なモノだ。

 気がつけば、空は赤くなっていた。トワイライト、じきに夜が来る。

 今日の寝床を探さなければならない。なのにわたしは石ころから目が離せない。

 気にすることなんてない――イドの言葉が頭の中で繰り返される。

 気になんてしてない。ただ、わたしと二人は何が違うのか、と思っただけなのに。

 ――水面に石ころが墜落して、波紋が広がる。

「どうしよう」

 ――二人はきっとわたしと同じ年頃なのだ。

 それは頼りない同行者イドの推理でしかないけれど。

「どうしようかな」

 ――わたしも、こうなるのかな。

 そう、考えてしまう。

「――人は、死ぬ時はひとりきり――」

 ふと思い出された言葉が口から零れた。

 確かそれは、旅の途中に立ち寄ったコロニーで、わたしを心配して留まるように説得を試みた人が言った言葉だった。「だから、此処にずっといなさいな。そうすれば独り死ぬ時も、あなたのことを覚えていてくれる人がいるから、さみしくないよ」――そう、続いたはずだ。

 独りはさみしいなんて、わたしにも分かっている。誰かと共にいられる暖かさは何にも代えられないものだろう。それでも、わたしは説得を振り切ってコロニーを出たんだ。わたしのほんとうの結末を見つける為に。

 だから、わたしはさみしいなんて、分かっていた。

 そんな感傷には溺れずに旅をしようと決めたじゃないか。

「――でも、さみしいなぁ」

 久々に感じる孤独から、目を離せない。

「むむむ。どうにも、弱気な感じ――」

 近ごろ出来た同行者のおかげで、誰かと話すことが増えたから?

 それとも、夜になる前の空が美しく赤色で、儚さを感じたせい?

 わたしは二つの遺体を前にして、夕焼けに立ち尽くしていた。

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