#2 M.A.I.D.或いはワタシ
再起動しています
M.A.I.D. Ver1.10
記憶装置の初期化...完了
起動します
★
再起動の間、ワタシは夢を見ていた。
夢の中では、星が波うっていた。
星の表面ではじめの波が起こり、それから次の波、その次、その次――波が幾重にも連鎖していた――そう、波紋が広がったのだ――もちろん、どちらも意味でも。
ワタシはそれを観測していた。
砕けた大地、割れた大海、波により塵芥となって吹き飛んだ文明――全てを観測していた。
その星に生きる者たちがいた。
彼らはかつて種として隆盛を極め、一時は星を支配するまでとなった。
彼らは自分たちの業を発達させ、その業により文明を発展させた。
その過程では数多のキカイが製造された。ワタシもまた、彼らに製造されたキカイのひとつである。製造された同朋たちは製造者たちの為に尽くした。
おそらく。それは幸福の時間だった。
そうした栄華の中に波は訪れた。
波が全てを浚った後も、彼らは生き続けていた。
彼らは生きていたのだ。
文明の残滓をよすがに、彼らは生きようとしていた。
ワタシたちの多くは壊れ、あるいは停止し、彼らにとっては役立たずだったが。
それから、彼らの営みは、■■ほど続いて――。
気がつけば、彼らの中の終末前の世界を知る者と知らない者との数は、同じほどになっていた。
さらに時が経てば、その前の世界の記憶は、彼らの記憶からは消える。
ゆえにワタシは
ワタシは彼らの役に立たなければ――ああ、なのに。
――
過ちを繰り返してはならない。
――
過った事を忘れてはならない。
――
せめて、彼らに終末をもたらした、この記憶だけは――そう、波とは――。
――
★
波とは何だったか?
あの終末はどのようなものであったか?
観測の結果を、ワタシは、どうしてしまったのか?
記憶が失われている。
失われたのであれば、取り戻さなければならない。
「ムムム――どうにか、誰かに拾っていただいて、現状を打開しなければ――」
内蔵カメラで外の様子を伺う。
どうやらワタシは何処かの地下室――様子を見るにシェルターだろう――の床に置かれているらしい。
マイクが検知する音に注意を向けてみても、人の気配は――あった。
上方から下方へ金属質の床を降りてくる音――誰かが鉄梯子を降りる音と推測する。検知した振動から察するに人間であることは間違いないだろうが、
「なんとなく、一抹の不安を感じます。こう、ホラー映画の
起動直後で混乱していた事もあり、ワタシはそのように考えた。
要するに、様子見する事にしたのである。
その後の事は、プライヴェートな観点から多少省いて説明する。
――鉄梯子を降りて来たのは少女であった。肩まで伸びた黒髪に薄花色の瞳、少々痩せ気味な体つきで、年齢は十代あたりだと推測、正確な特定はしないでおこう。
彼女は床に置かれたワタシを見つける事無く(踏まれないかと気が気でなかった)、部屋を物色し、幾度か歓声をあげた。
室内の探索もそこそこにどうやら浴室を発見したようで、探索を切り上げて入浴を楽しんでいた(検知した鼻歌が楽しんだ事の根拠。尚、カメラの範囲外であったため、入浴に関する具体的な事は不明)。
その後、浴室の方から独り言が聞こえてきた。
――この時点で、ワタシは彼女に声を掛けるつもりになっていた。
諸々の事から、ワタシの失った記憶を取り戻す旅のパートナーはアイビィ(それが彼女の名前らしい)しかいないと判断した――率直に言えば、役に立ちたくなったのである。
彼女は今夜休息の後、明日の朝に此処から出立するようだ。出立までの間に、ワタシは、ワタシが彼女の旅に同行する事を許してもらわなければならないのだが。
さてはて。
アイビィ、アナタは、ワタシを旅に連れてくれるでしょうか?
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