#1 終末世界
終末について、わたしたちはどのような捉え方をするべきだろうか。
終末――物事の終わり。果て。――ざっくりと言ってしまえば、そういう何かの結末を終末と呼ぶのだとわたしは思っている。もちろん、同義の言葉や表現は他にもあるだろうけれど、ともかく終末の認識はそれでいい。
では――そう、『では』だ。この話には続きがある。終末の意味だけであれば簡単だけれど、世の中は何事もそう簡単には終わってくれない。差し当たって、これからは、先に出た「終末」を冠する世界――「終末世界」について考えてみる。
終末世界について、簡単な事実を確認していこう。
――終末世界とは、わたしたちの生きる世界の事である。
――終末世界とは、文明が滅んだのちの世界の事である。
――終末世界とは、いまだ継続している世界の事である。
以上、わたしの知っている世界の事。
もちろん――生きるためには食事と水が必要な事――野宿は野生動物に襲われるから危険な事――屋内でも建物の倒壊に巻き込まれる場合があるから注意する事――コロニー(一所に人が集まって定住しているところをそう呼ぶ。数に決まりはなく、その場所に複数人の定住者がいるならコロニーだ)はわたしのような旅人にとって安全な休息場所になる事――等々、世界の事なら他にも分かる事はあるけれど、これは一旦置いておいてしまっていいだろう。
さて、終末世界の事だ。
この世界にわたしたちは生きている。わたしたちとは、人類――わたしと、それ以外の生きている人々――を指す。現在のわたしたちがこの世界に占める割合は一割ほどで、あとの九割はぜんぶ他の動物たちだと思う(『思う』というのは、幽霊とか、宇宙人とか、そういう動物以外の何かもいるかもしれないから)。
自然、人類は世界のなかでは少数派の種になっている。自分たちの数を減らさないようにするのが精一杯で、他の種を支配しようとか、世界の覇権を手中にだとか、そういう事は出来ていない。おそらく、いま世界を支配していると言えるのは、何処でも見られる植物とかではないだろうか(植物にそのつもりはないだろうけれど)。
ただ、以前はそうではなかったらしい。
人類はいまよりもずっと数が多く、世界中に国家と呼ばれる共同体(超巨大なコロニーであったらしい)を持っていた。彼らは山を砕いて海を割り――そうして開拓した自然に住処を建て、そこで繁殖し数を増やして――文字通り、世界を支配していたのだという。
そして、かつての人類は隆盛を極めたその果てに、殺し合った。
世界に向いていた支配の欲求が、同朋に向いた。人類は己と他との間に境界線を定め、その目に見えぬ線により別たれた。別たれたのち、その線に囲まれた自分の領土を拡げようと努力した。
初めは国家同士で、その次は人同士で――争いが争いを呼び、流れた血はさらに多くの血を流すための呼び水となった。
彼らの終末はどんなものであったのか――世界を壊すほどの破壊力を持った爆弾が幾つも降り注いだとも言われているし、皆が争う事に疲労して生きる事を諦めてしまったとも言われているし、繁栄により増長した人類の愚かさに見かねた大いなる存在が人類を間引いたとも言われている――あるいは、そのぜんぶなのかもしれない。
とにもかくにも、人類は終末を迎えた。
その後の世界が、わたしたちの生きる終末世界というわけだ。
世界を支配した人類は零落し、他の動物たちの生存競争の隙間に辛うじて生きられるほどにその数を減らした。
隆盛を極めた文明のほとんどは砕かれて、その残り滓を残して滅んでしまった。
残ったごく少数の者たちは、文明の残り滓をよすがに今日まで種を存続している。
終末世界とは、滅びを迎えた人類にとっての世界である。
とはいえ、終末といったところでわたしの生命は続いていくのだし、前の世界――文明とか、文化とか、日常とか。言い方は色々あるだろうけれども――なんて、わたしは人の話でしか知らないのだし。
わたしにとって、終末や終末世界とは、わたしの日常でしかないのだけれど。
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