第53話 053

「性欲もだけど、あんたは食欲も有り余ってるよね」


サラッと一回済ませた後、言っていた通りにドライブスルーで買ってきたマック。

ダイニングテーブルではなく、リビングのローテーブルに広げたところで、明里がまた、呆れたため息を吐いた。


「肉食なもんで」

「また太るよ」

「気をつけまーす」


元々がラグビー部な事もあるし、小さい頃から横にも縦にも大きめだった俺は、油断するとすぐに太る。

ラグビーをしていた頃は、食べるのも練習の内。と言われて好きなだけ食べていて、だけど、それ以上に運動していたからか、ゴツくはあったが、デブではなかった。

だけど、辞めると一気に運動しなくなるものの、食欲はそう落ちない。

大学1年の時は、食欲と体重のコントロールが本当に悩みの種だったのだ。


明里はその頃の俺の写真を見て、瞬間的に


「うわ、デブス!」


と爆笑した過去がある。


確かにね。

ちょっと太ってましたよ。

それが顔にも出てましたよ。

でも、女子には困ってなかったし、そこまでじゃないと俺は思っているのに。

なのに、事あるごとに「また太るよ」「整形のくせに」と弄ってくる。

嫌じゃないからいいんだけど。


「でも明里も、見た目の割りによく食う方じゃん。どんどん代謝が悪くなってって、後から太ると見てるもんね、俺」


テレビを点けて、アマゾンを開いて、


「わたしはそんな事ありません! ちゃんと管理するし」


隣に明里が座った瞬間、


「悪い、ちょっと連絡事項あったんだ。いい?」


冷や汗がじわりと湧き上がるような感覚が肌を冷やした。


どーぞー、と、缶ビールを開ける明里を横目に、iPhoneを立ち上げる。


『ゆかりごめん。アマゾン使わないで。TUTAYAの方は見ていいから。それとYouTubeはテレビ使わないでスマホで見て欲しい』


素早く打ち込んで、送信する。


「アマゾンとか数ヶ月ぶりに開いたんだけど」


明里は楽しそうに、勝手に流れるお勧め映画を見て、あ、これ見たいかも、なんて言いながらリモコンをいじっている。


俺は、既読にならないもどかしさに、上の空で相槌を打つ。


頼む。ゆかり、早く気付いてくれ。


「これって昔の映画も結構あるの?」

「ん? ああ、何か、スペシャルドラマみたいのもたまにあるし、連ドラとかも、あるよ」

「ふーん、あ、虹色デイズって、玲於出てるやつ? これ観ていい?」

「玲於?」

「ジェネの佐野玲於。わたし結構好きなんだよねー」


明里がそう言いながら、リモコンの決定ボタンを押した時、手の中のiPhoneが小さく震えた。


『りょーかいでーす。もしかして、これ、奥さんとシェアしてる? 何か言われた? アニメ見すぎたかな? ごめんちゃい。検索履歴、書き換えとこっか?』


その文字に、一気に緊張が緩んで、本当に汗が滲んでくる。


『ホント、お前いい子だな。帰ったらご褒美やるよ』

『わーい! お花見!』

『それはご褒美じゃねーだろ。約束したじゃん。他に何か、考えといて』

『わかった❤️』


安堵に多分、口元が緩んでいたんだと思う。



「何ニヤけてんの?」


明里がビールを差し出しながら、冷ややかな目で俺を見ていた。

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