第45話 045
それらしい理由。ってヤツを時々考えながら、3時間と少し、車を飛ばした。
だけど、それらしい理由、なんて、何一つ浮かんでこなかった。
高速を降りて、少し考えながら自宅への道を辿る。
色々な街に住みすぎて時々帰り道を忘れそうになるのは、しょうがない事だと分かっていても、いつも少し、後ろめたくなる。
目的地の近場のパーキングに車を停めて、歩きながら財布の中にあるはずのカードキーを探す時も、それが、非日常すぎて、言い表し難い気分だ。
アパートよりもセキュリティも造りも比べものにならないマンションの防犯システムにも、何だか弾かれそうでいつも少し緊張する。
俺が来ない間に、カード変わってんじゃ無いか?
なんて、馬鹿みたいな事すら脳裏を過るほどに。
だけど、そんな心配をよそに、いつもガラスのドアはすんなり開くんだ。
宅配ボックスも、郵便ポストも空だった。
内勤職の明里が残業する事なんて滅多に無いし、コロナのせいで、勤務後の飲み会も禁止されている今、不在なんて事はまず無いだろう。
面倒くさがりの明里が、一度帰宅してから買い物に出掛ける事も、まず無い。
11階までエレベーターで上がって、いつもは使わない鍵を選んで鍵穴に、、、
その瞬間、
初めて思った。
俺、何も言わずに帰ってきて良かったのか?
と。
俺だけじゃ無いかもしれない。
伸ばしかけた手を宙に置き去りにしたまま、足が廊下に張り付いたように動かなくなった。
こういう事なんだ。
だから嫌だったんだ。
誰かに何かを隠すと、誰かに何かを隠されているんじゃないか、と、余計なストレスが増えるから。
だから、俺は今まで浮気を避けて通ってきた。
例えそれが、名前も知らない通りすがりの相手でも。
もし今、明里に何か言われたら、俺の頭にはゆかりの顔が浮かんでしまう。
それは必ず明里に伝わってしまう。
もし今、明里にそんな誰かが居たら、俺は気付いてしまうだろう。
そして、俺は、気付いたとしても、何も言えないし、言わない。
明里にそんな誰かがいるのが嫌なんじゃない。
気が付いても言えない自分が、嫌なんだ。
どのくらい、そこに立ち尽くしていたんだろう。
エレベーターホールの方から、知らない誰かの話す声が聞こえてきて、
反射的に、
鍵を鍵穴に突っ込んでいた。
まるで毎日そうしていたように、何の抵抗もなく、鍵が回る。
いつものアパートと何も変わらない。
時間を稼ぐみたいに、鍵を鞄に仕舞ってから、ゆっくりとドアノブを引いた。
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