第41話 041
「お前、俺がいない間、何してんの?」
木曜夜。
定時で上がって帰った俺を待っていたのは、鶏肉を酢で煮た煮物と、大根のサラダ。豆腐の味噌汁とキャベツの浅漬けだった。
料理出来ないとか、嘘だろ絶対。
「今日はね、一日中iPhone弄ってた!」
エアコンを効かせ過ぎた初夏のような部屋で、タンクトップに俺のトランクス姿のゆかりは、初対面の時に気になっていた
来月の電気代が怖い。
「暇じゃない?」
「全然。お昼はサスペンスの再放送一気見してるし、バラエティー番組も面白いよ」
「太るぞ」
ゆかりのお皿から、肉を奪って口に放り込む。
「ひど!!」
今度はゆかりが俺の肉を拐う。
「バイトとかする?」
「バイト?」
「そう。バイト」
俺の提案に、うーん、と唸るゆかりからは、前向きじゃない事しか読み取れない。
「借金は俺がチャラにしてやるんだし、これからどうするか、考えてみればいいのに」
「まあ、そうなんだけどさ」
ゆかりの手が止まって、焦点が曖昧に宙を彷徨う。
「あ、もしかして、身分証明書がない、とか?」
「ううん。保険証持ってる」
「持ってるんだ?! え? 住所は?」
「実家」
「実家あんの? って、あるか。。。」
「あるよ。一応」
「ちょっと待って、お前、税金とか払ってんの?」
「たぶん」
「多分?!! え? どうやって?」
「親が自営業だから、多分、そこに雇われてる事になってると思う」
ゆかりの受け答えに、色々疑問が湧いてくる。
親いるんじゃん。
てゆーか、家あんじゃん。
どゆこと???
「何か色々意味不明なんだけど」
素直にそう言うと、ゆかりは面白そうに笑った。
「多分、カズキは出会った事のないような人間が世の中いっぱいいるんだよ。そのうち順番に説明してあげる」
そう言われても、釈然としないもやもやが、鳩尾の辺りに詰まる。
黙々と料理を口に運ぶ俺に、
「カズキは?」
と、ゆかりが聞いてきた。
「俺?」
「うん。カズキの家族は?」
「俺の、家族、、、」
家族と言われて、
最初に浮かんだ顔は、実家の母親だった。
「、、、嫁、が、ちょっと離れた所に住んでる」
2番目に浮かんだ明里の顔を脳裏に投影し続けながら、そう答える。
「何で一緒に住んでないの?」
「車で3時間くらい掛かるから。俺、転勤多いし。嫁は遠くに転勤する事は殆どないし。まだ子供もいないし」
「ふーん。奥さん、寂しいね」
ご飯を口に運びながら、ポツリとゆかりがこぼした一言が、小骨のように引っ掛かった。
俺は、寂しい、と思った事は今までない。
俺が今まで無かったから、それは明里もそうだと思っていた。
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