第39話 039

好きかと聞かれても、

嫌いじゃない、

くらいの答えしか出来ない。



「んー、、、」


腕の中で、ゆかりが身を捩る。


「んー?」


唇を離すと、


「しないんじゃなかったの?」


大きな目で訴えるように聞いてきた。


「んー。。。気が変わった」


そう答えて、もう一度、唇を重ねる。



身体の相性って大事だとか、よく聞くし、俺もそこは結構大事だと思っている。

テクニック云々よりも、相性が合えば割とどうとでもなると言うか、気持ちだけじゃ補えない時って、実はよくある。

ただ挿れて出したいだけって事なら、相性なんてどうでもいいかもしれないけれど。


でも俺は、それ以上に、いや、その中でも、


キスの相性を重要視する傾向がある。


言葉では説明出来ないんだけど、何て言えばいいんだろう。

3秒キスをすると、次があるか、何となく分かる。

またしたいと思うかどうか。


それは、本当に感覚的なことで、またしたいと思うのは俺だけなのかもしれないけど、そこで無理だと思ってしまうと、最悪、コトが進まなくなる。

それに、キスだけでも、分かる事は意外と多い。



「カズキ、、、ね、待って」


いつまでもキスをやめない俺に、微かな隙間からゆかりが訴える。


「やだ」


「んー、、、」


トントン、と、ゆかりの手が俺の胸を叩いた。


その手を掴んで、俺の首に回す。

そのまま、背中を支えながら、フローリングに押し倒した。


唇を離さないまま、薄く目を開けると、伏せられた長いまつ毛が揺れている。

「ゆかり、目開けて」

呼吸の合間に呼ぶと、まつ毛がゆっくりと動いて、遠慮がちに視線がぶつかった。

迷ったような色。戸惑っているようにも見える。


唇を離して、そのままの体勢で髪を撫でた。


その手を、少し動かせば、ゆかりは何の抵抗もせずに、俺を受け入れるだろう。

多分、ゆかりにとってそれは当たり前の事で、ここに来たのも、その為だと納得している。

俺を好きだと言うのも、鍵が開く音が嬉しいと笑うのも、

そう自分に言い聞かせているだけだ。


ゆかりは俺が好きなんじゃない。

俺を好きにならないと、この状況で生きていくことが難しいから、俺を好きだと思い込もうとしているだけだ。



キスだけでも、分かる事は意外と多い。


相手が本当にそれを望んでいるのかは、キスをすれば大体分かる。

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