第36話 036

携帯の調子が悪い、


なんて嘘だ。


強いて言うなら、調子が悪いのは、俺本体。



昨日は、もう考えるのは止めだ、と思った。

何とでもなる、と本気で思った。


なのに、


車に乗って、オフィスに着くと、そこにある現実が腑に落ちて、急にまた焦り出した。



こんなのは俺らしくない。

かなり、俺らしくない。

っていうか、

もう、俺じゃない。



平日だっていうのに90分待ちと言われた番号札を眺めながら、大きなため息を吐く。

これからしようとしている事も、説明がつかない。

堅実に、ただ面倒が起きないように、

そう思っているはずなのに、どんどん事態は拗れていっている。


出口があるのなら、誰でもいいから案内して欲しいと、心の底から願っていた。



「あれー? 植原オフィス長?」


待ち時間と答えのない焦りから目を逸らそうと、眠くもないのに目を瞑った瞬間、

明るい声が降ってきた。


「、、、和田さん?」


「良かった、最初に当たりで!」


セミロングの髪を揺らしながら、当たり前の様に和田愛梨が隣の椅子に腰を下ろした。


「今日、代休じゃ、、、」

俺が言い終わるよりも先に、

「代休なんですけど、前から攻めてる社長が急にアポ取れちゃって。オフィスに電話したら、オフィス長、ケータイ直しに行ったって言われちゃって。代理から電話入ってません? 繋がらないって言ってたから、近場探しに来ちゃいました」

マシンガンの様に話し始める。

「堂島オフィス長にも何回か同行してもらってて、でも、オフィス長、昨日は先輩の法人周り入ってたじゃないですか? 新人だし、後からかなーって思って、取り敢えず社長にオフィス長とご挨拶に伺いたいって言ったら、今日の2時なら空いてるって言われちゃって、めっちゃ慌てちゃいました」

アナウンサー顔負けの滑舌だ。


めちゃくちゃイメージ違うんですけど。。。


圧倒されつつも、仕事用の携帯をチェックする。

確かに。

オフィスと代理からの着信があった。


「、、、14時アポ、、、って事?」


和田さんの言葉が切れたのを捉えて、言葉を挟む。


「はい! お願い、できますか?」


「まぁ、、、今日は何もないから、大丈夫だけど」


押され気味に答えると、文字通り、笑顔がパッと咲いた。


この子の武器はこれか。


いつも通りに冷静な俺が、その笑顔を斜めに見ていた。


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