第35話 035

「水曜日はやっぱ人少なねーなー」


土日に仕事をした職員の振替休日が週で一番多いのが水曜日で、今日はその日だ。前もって申告されてはいたけれど、実際に人のオフィスに来てみると、本当に閑散としている。

これは、どこのオフィスに行っても変わらない。


「ねーねー、代理」

隣にデスクを構えているオフィス長代理の澤村さんに、椅子ごと身体を振る。

「何ですかー?」

「今日ってさー、朝礼で何か伝達事項ってあるー?」

「んー、、、」

確か、今年で50歳になる、と言っていた代理は、どこから見ても40代前半にしか見えない、いかにも保険屋っぽい風貌だ。

黙って座っていると、どこか不機嫌そうに見える。

今まで出会った代理はみんな、このタイプだった。

最初はビビったけど、実はめちゃくちゃ女性らしいタイプが多いのも、もう掴めて来ている。

「私は特に無いですよ。オフィス長は? 本社から何かありました?」

手帳とパソコンを見ながら、代理が質問で返してくる。

「いや。コロナがなー。都内、活動停止オフィス出てるでしょ? こっちも有り得るからさ、早いとこ4月分、終わらせてあげたいよなー、特に新人。気になる子いる? 代理が無理な時は俺も同行するからさ」

「気になる、、、と言えば、和田、山崎、松本、ですかね」

「あがってないんだっけ?」

自分の背中に当たる壁に貼られている成績グラフを振り返る。


3月末日までに、4月分を埋めたい。

堂島に渡したグラフよりも、俺の方が少し不利な気がする。

あんにゃろう。

旧人はそれぞれのリズムがあだろうから、ある程度放置しておいても問題ないけれど、最低3年、長い子だと6年くらいはちょこちょこ口出ししないと仕事が滞る。

そもそも、絶対的にお客様数が少ない新人にとって、毎月訪れる締め切りは個人差はあるものの、相当のストレスだ。


この業界、評判が決して良くないのは、その一点から出る諸々の問題のせいなのだから。


「今日代休取ってるのは?」

俺の言葉に、代理がパソコンを見て、

「和田と松本、、、ですね」

と、答える。

「俺、ちょっと携帯調子悪いから、ショップ行ってくる。代理、悪いんだけど、3人の見込み、確認しっかりしといて。よろしく」

人の揃わないオフィスを見渡して、パソコンの電源を切った。

「オフィス長、朝礼は。。。」

慌てたような代理の言葉を、

「今日は朝礼いいや。何もないし。日報だけ各チームに配っといて」

と、遮って、立ち上がった。

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