第34話 034
自慢じゃないけど、特定の彼女がいる時に、浮気をした事はない。
元々、そこまで恋愛に対して積極的じゃないという事もあるかもしれないけれど、一目惚れなんてした事がないし、いいな、と思ったところで、そこから『好き』に発展する事がまず少ない。
だからと言って、全くの草食系でもない。
付き合ってなくてもする事は出来るし、合コンでいい感じになったらそのままホテルに行く、なんて事はよくあった。
もちろん、彼女がいない時限定。
基本的に、ものすごく面倒くさがりなんだ。俺は。
まず、浮気相手を黙らせるのが面倒くさい。
俺に惚れてる子なんて一番あり得ない。
お互い浮気なら、まず黙っているだろうとは思うけど、その子が彼氏と別れでもしたら、口に戸は立てられなくなる。
それに万が一、ヤったら好きになっちゃった、とか言われたら目も当てられない。
別に、自分に自信があるとか無いとか、そういう事でもなく、現実的に、そういう奴を知っているから、俺はやらない。
どれだけ気を使って完璧だと思ったとしても、
女の勘は理屈を超えている事も、よく知っているし。
隠しきる自信がないから、俺は浮気はしない。
バレた先の面倒は、隠す面倒の遥かに上を行く事も、よく分かっているから。
誠実さでも、一途さでも、真面目さでも何でもなく、
面倒だから、浮気はしない。
そう。
そう思っていた。
湯船に沈みながら、ネットサーフィンをするように、頭に浮かぶ単語や出来事を眺めては見送る。
いつもの倍はふやけた気がして来た頃、
俺は考えるのをやめた。
考えるのを辞めて、開き直った。
これは浮気じゃない。
浮気では、ない。
犬だ。
犬を飼ってると思えばいい。
実家でも犬を飼っていた。
奴らは人の顔をペロペロよく舐めるし、人間だって、頭だの鼻だの、キスをする。
一緒に眠る事もあるし、毎日抱きしめるし、癒しを求めて愛情を押し付けることもしばしばある。
俺は、話せる大型犬を買った。
それがたまたまメスだった。
それだけだ。
俺は、彼女をローンで買ったんじゃない。
ペットをローンで買った。
あまりにも無茶苦茶なこじつけだってことは、よく分かっている。
それでも、
もう俺には、
ゆかりを放り出す。
という選択肢は、
全く残っていなかったんだ。
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