第33話 033

ゆかりが作ってくれたミートソーススパゲッティは、物凄く、普通に美味しかった。

レトルトなんじゃないか、と、軽口で聞いてみたら、ゴミ箱を調べろ、と、怒られてしまった。


さっきまで、3時に食べたコンビニパスタと和田愛梨のせいで、食べ物なんて何も要らないと思っていたのに、胃袋はゲンキンなもので、同じパスタを普通に一人前と半分くらい、たいらげてしまっている。


「料理、出来ないんじゃなかったっけ?」

タンクトップにボクサーパンツという、我ながらなかなか間抜けな格好のまま、空になった皿を持って立ち上がる。

「出来ないよ」

ゆかりのとっくに空になっていた皿も、自分の皿に重ねた。

「出来てんじゃん」

キッチンのシンクに二人分の皿を下ろすと、何となく、不思議な光景に見える。

パスタを茹でた後の鍋。

ミートソースが少し残ったフライパン。

それから二人分の空の食器。


「洗う」


ゆかりが隣に立って、腕まくりをし始める。


「いいよ。作る人と、食べて片付ける人。お前が作ってくれたんだから、俺が洗う。ね?」


ゆかりの袖を元に戻して、そのつむじに唇を当てた。

ゆかりは、俺が触れたところを両手で触れて、

「ありがと。カズキ、だいすき」

と、笑った。


「はいはい。俺もだよ」


俺も笑って見せてから、皿洗いに取り掛かる。


まだ冷たい水で洗剤を泡立てながら、上がっていく水温と一緒に、拍動が早くなっていくのが分かる。


俺今、何した、、、。


ゆかりは、上機嫌に鼻歌を歌いながら、ソファーでゴロゴロしている。


水音とテレビの音。

それからゆかりの鼻歌の中で、間抜けにも、心の中で明里に懺悔を繰り返していた。

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