第31話 031

「あ。。。」


気が付くと、コンビニを通り過ぎていた。

iQOSも、もう発熱を止めている。


自嘲と諦めのため息を零して、窓を閉めた。



昼飯が遅過ぎて、しかも、後味が悪すぎて、晩飯の事が考えられない。

いつもなら、アパートが近付くと何を食べようかと考え始めて、適当なものを買って帰るけど、今はそんな気分じゃなかった。


アパートの集合駐車場に車を止めて、少し考えてから、部屋とは逆に向かって歩き出す。


どうしても、紙タバコが頭から離れてくれなかった。


50メートルほどしか離れていないコンビニに入って、そのままレジに向かう。

「あら、保険屋さん、お帰りなさい。タバコだけ?74番でいい?」

お喋り好きのパートさんが、笑顔でそう言った。

「タバコだけっす。あと、えっと、、、」

ズラリと並んだパッケージの中から目的の柄を探す。

「銘柄でいいですよ」

そう言われて、

「キャスマイ、、、じゃないか、もう。何だっけ」

と、苦笑いで答える。

「ウィンストンの5ミリね」

そう言いながら懐かしい箱を持ってきてくれた。

「うちの息子もこれだったのよねー。iQOSにする前は。ライターは?」

「あ、ライターも」

ピッピッピッっと、軽快にバーコードを読んで、二つの箱とライターを重ねてこちらに押しやって、

「何かやな事でもあった? 保険屋さん」

と、含み笑いで目を合わせてくる。

「何もないっすよ。配置移動があって、ちょっと疲れてるだけです」

箱を持ってそう答えると、ま、頑張って、と励まされた。

会釈を残して、コンビニを後にする。


あの人が母親って、疲れそうだな。

なんて失礼な事を考えているうちに、アパートの敷地にたどり着いてしまった。


駐車場の中ほどに止めてある愛車のボンネットはまだ暖かい。

寄り掛かって、タバコの封を切る。

トントンと金紙を叩いて直接タバコを咥えると、懐かしい匂いがした。


ライターを擦る音と、紙の焦げる音。


それから、煙草の葉のける音。


その後に届く、重い煙が喉を燻す匂い。



「まっず、、、」



iQOSに慣らされた舌が違和感を訴えたけど、構わずふた口目を吸い込む。


口の中の違和感を追うように、首の後ろの血管が細くなる感覚があって、それから、脳が縮むのが分かった。


朝一番の感覚に似ている。

絶対に身体に悪い。

そう思うのに、絶対にやめられない自信もある。


「あー、、、不味いけどやっぱうめぇ、、、」


星も雲もない夜空に呟いて、目を閉じた。

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