第28話 028

車から見える景色のそこここに、桜色が散りばめられていること。

桜の回廊を潜る時、思わず上の方を見てしまうこと。


そんな今までも当たり前だった景色を、生まれて初めて、美しいと思った。

桜を見て、日本人で良かった、と、初めて思った。



「と、言うわけで、昨日も話したんだけど、俺は、ありがたい話なんていくつも持ち合わせてないし、みんなの大切な時間を奪うつもりもないので、朝礼はあと一言だけ」


9時40分。

オフィスを見渡す。

まだ見慣れない職員の顔。


「新型コロナウイルスで、お客様はみんな不安を感じられています。それぞれ、お会い出来たお客様に、医療保証の確認。中期入院に家族は耐えられるのか。癌や脳卒中、心筋梗塞じゃないからどこの保険会社もまとまった一時金は出ない。じゃあ、どうする?

 中期入院に耐えられる保障は?

 答えはみんな持ってるよね?

 今、絶対にニーズは増えてる。ウイルスが勝手にニード喚起してくれてる。今しか捕まらないお客様が絶対にいる。

 みんなはお客様の声を、出来る限り集めてくれると確信してる。俺は、それを待ってる。

 

 朝礼終わり! 行ってらっしゃい!」


『行ってきます!!』



どこに行っても変わらない。

互礼で解散。

後は散り散りになる。


「あ、そうだ、ごめん、もいっこ!」


椅子に座ろうとして、慌てて手をあげる。

それぞれの作業に入ろうとしていた職員たちが、一斉にこっちを向いた。


「終わりって言ったのに、ごめんね」

と、付け足すと、クスクスと笑う声があちらこちらで上がる。

いいオフィスっぽい、じゃん。

と、心の中で呟いた。


「職域、出禁になってる人いたら、ちょっと集合。これからも、出禁でたら俺にすぐ教えて! 以上! こんどこそ本当に終わり!」


パン、と手を叩いて、椅子に座る。

少し気の抜けたような、はーい、という声が四方から湧いてから、ザワめきが戻った。

少なくとも、堂島じゃなきゃやっていけない、というような職員は見当たらない。

それだけでも一安心だった。


「オフィス長、私、出禁あります」

「あ、私も!」


そう言いながら、集まってきた職員は4人。

まだ少ないな。


「ありがとう。えっと、、、川越さん、森さん、飯塚さん、と、佐々木さん」

一人一人確認すると、

「もう覚えたんですか?」

「はやーい!」

「さすがオフィス長!」

「コウセイのライバルだけあるぅ」

口々に彼女たちが笑い合う。

「はいはい。お前ら、堂島オフィス長のこと、コウセイとか呼んでたのか? 間違っても俺の事はカズキなんて呼ぶなよ?」

俺も笑って見せて、仕事の話に戻す。

当然、振り、だ。

俺の居ない所では、カズキとでも呼んでいてくれるくらいの方がいい。

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