第22話 022

真夜中にカップラーメンを作るのなんて、久しぶりだ。


ゆかりは、さんぷんさんぷんー、と歌いながら、お湯を注いだカップを大切そうに両手で持って、リビングに向かっていった。


電気を点けないまま、テレビの電源を入れる。


「何か、眠気も酔いもすっかり覚めちまった」


半分独り言。半分ゆかりに、そう溢す。


「なんか、ごめんね?」


床に座ったゆかりが、隣に座る俺にてへ、と笑う。


さっきまで、鳩尾の辺りに溜まっていたものが、もう腹の奥の方まで押しやられていた。

後は、カップラーメンと一緒に消化するだけだ。


「いや、ありがとな」


リモコンを操作しながらそう伝える。

こういう時、3分は意外と長い。


「あんまいーのねーなー。ゆかり、観たい映画とかある? あ。跳んで埼玉じゃん。何かテンション違う気もすっけど、観る?」

Amazonプライムの画面を操作しながら、タイトルを選ぶ。

「なに?それ」

ゆかりも、同じ画面に目線を走らせている。

「知らない? はなわがテーマソング? 歌ってる。だんだださいたまっ! って」

「なにそれ!」

「とにかく埼玉をディスる映画? みたいよ? 俺観てないんだけど」

「観たいの?」

「いや、なんか、取り敢えずいつか観てみようとは思ってた感じ?」

「じゃあそれでもいいよ」

クスクス、笑いながらゆかりが俺を見ているのが、分かる。

「んー。これは次の休みの日でいーや。昼間に観たい」

「なんだいっ」

画面をテキトーに移動しながら、色とりどりのタイトルが入れ替わっていくのを眺めた。


邦画、洋画、ドラマ、アニメ。

聞いたことのないタイトルが溢れている。

このアパートに来る前からAmazonには金を払っていたのに、ろくに見てなかった事に気付いた。


「あっ」


唐突に、ゆかりが前のめりになる。


「ん? どれ?」

「それ! 人魚!」

「人魚?」


ゆかりが見つめる先には、篠原涼子が映っていた。


「人魚の眠る家?」

「うん。それ」

「今から? ちょっと重くね?」

「あー、まぁ、そうか。カズキは明日もお仕事だもんね」


そうだよね、と呟いて、ゆかりは座り直してカップラーメンに手を伸ばす。

もーいーかなー? まだ硬いかなー?

なんて、首を傾げながら。


何故か俺が、気まずいような気分になっている。


「ラーメンおいしー! やっぱ今日は寝るのがいいね」

咀嚼する間に、ゆかりは俺の手からリモコンを奪って、テレビを消した。


俺は何も言葉が出てこなくて、黙って麺を啜っていた。


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