第21話 021

「、、、なんだよ、寝てろよ」


スーツがシワになりそうな勢いで、額を押し付けてくるゆかりを解けないまま、手から鞄が滑り落ちて、


逆にその小さな身体を抱きしめていた。


フルフルと、ゆかりが腕の中で首を振る。


「だってカズキ、8時って言ったから」


消えそうな声で、そう言いながら背中に回された腕の力が弱くなった。

それから、腕の中の肩が震える。


「、、、ごめんなさい、、、」


ゆかりの腕から力が抜けていくのと反比例するように、俺は、いっそう強くゆかりを抱きしめる。


「それは俺のセリフだろ。ごめんな」


髪を撫でながら、少し屈んで、その耳に直接呟くように唇を寄せた。



嗅ぎ慣れた匂いがする。

同じシャンプーの匂い。

だけど、俺とは少し違う感じもする。


その心地よさに、まぶたを閉じて、何度も何度もゆかりの髪を撫でた。




どれくらいそうしていたのだろう。


「カズキ」


腕の中でゆかりが顔を上げた。


「ん?」


俺も、少し腕を緩めてゆかりを見下ろす。

カッチリと視線が噛み合ったまま、少しの間、お互いに確認するように目を合わせていた。


それから、ゆかりは眉間にシワを寄せて、


「お腹減った」


と、言った。

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