第20話 020

終電でアパート近くの駅に降り立った時、腕時計はもう、午前0時47分を指していた。


集団での宴会は自粛。

そう言われていても、サシ飲みは許容範囲だ。


お互いに、偶然を装った送別会しかなかったし、歓迎会はもちろん無い。

いきなり現れたオフィス長に、警戒しかない職員に祝われても居心地が悪いだけだし。


タイミングの悪い転属と、お互いに頑張ろうという気分を上げられればそれで良いはずだった。


何なら少しだけ、自分の方が先に居ると、暗に見せられればそれで良いと思っていた。


俺の方が先に居る、と。



駅からの道のりで頭を冷ます。


一時的な事で感情的になって身を滅ぼすのは、脳のない人間のやる事だ。

結果が全て。

いつでも「上手く」やる事が大事なんだと。



慣れた道を辿ってからなのに、鍵穴に鍵を差し込む手が、おぼつかない。

そんなに飲んでいないはずなのに。


あと6時間で、またスーツを着て渋滞を乗り越えないといけない。

そう思うと、眠るのが嫌になってくる。


自己嫌悪で帰宅する日は多くないけれど、

たまにあるそんな日は、わりとダメージが大きい。


「あー、だり」


無意識に溢れた言葉と一緒に、鍵を開けて、玄関に靴を脱ぎ捨てた。


こんな時は寝るに限る。


手探りで電気を点けて、いつも通りに、、、。



「うわっ!」



ダイニングへのドアを開けた瞬間、

反射的に一本後ずさる。


ソファーの下。

直接フローリングに座っているシルエットに、酔いが一瞬遠のいた。




「、、、ゆかり?」



アルコールのせいで、すっかり頭の隅に追いやられていた名前が、突然、真ん中に浮かび上がる。



「カズキ、、、」



どのくらいそうしていたんだろう。

痺れているのか、おぼつかない足取りでゆかりが立ち上がって、



「帰って来てくれてありがと」



真正面から、

俺を抱きしめた。

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