第18話 018

昨日、、、


その後、ゆかりは何を言うつもりだったんだろう?


愛車のレガシィは予想どおりの渋滞に巻き込まれて、無駄な時間が余計な思考を駆り立てる。



昨日の夜。

いつまで経っても隣から立とうとしないゆかりを促して、ベッドまで連れて行った。

掴んだ腕は、見た目以上に細くて、

一見キレイに揺れている黒髪も、触れると乾いていた。


「俺、明日は大事な日だし、軽くでも寝ときたいんだ」


ゆかりをベッドに座らせて、肩を軽く叩く。


「そか。頑張ってね」


ゆかりも、促されるままに毛布に潜り込んだ。


「カズキ」

「ん?」


部屋を出ようと離れた俺を、ゆかりが呼び止める。


振り返ると、鼻から上を毛布から出して、大きな目が俺を見ていた。


「一緒に寝よ? その方がいい気がする」



ぐらりと足元が揺れた。


出来るのなら、温もりが欲しかった。


誰かを、

俺を必要としている誰かの温度を腕に閉じ込めて眠りたい。

そう思っていたのは、俺の方だったから。



「いや、だいじょうぶ。慣れてる」


でも、違うと思った。

それは間違っていると、俺の中で誰かが警告した。


ドアノブにかけた手を離さないまま、ゆかりの目から、目を逸らした。


そうして、

お互い何も言わないまま、

ドアを閉めた。



昨日、ちゃんと眠れた?



きっと、そう言いかけたんだろう。


止まっては流れる車の列の中で、自分でセットした髪を、自分で崩す。


ずっと先の方に微かに見える信号がまた、赤になった。


シフトをパーキングに入れて、ブレーキから足を離す。



8時には帰る。



そんな台詞は、初めて口にした。

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