第17話 017
エスプレッソマシーンで淹れたコーヒーと、少し離れた場所で流れるニュース。
それがいつもの朝。
朝飯は食わない。
7着あるスーツから、気分で一着を選ぶ。
スーツを決めてから、ワイシャツとネクタイを決める。
今日は、濃紺にストライプのスーツ。
少しだけピンクのワイシャツと、細かい幾何学模様の濃い
ツーブロックのトップにワックスを練り込んで、剃り残しをチェックする。
タイピンとカフスは、オフィス長になった時に親父がくれたセットを選んだ。
偉そうなのはNG。
いかにも使えなさそうなチャラいのも有り得ない。
今日狙うのは、古参営業員と、ド素人の新人層だ。
こんな息子が欲しい。
こんな旦那だったらな。
そう思わせられればいい。
洗面台の鏡に向かって、ネクタイの位置を直す。
その鏡に、
ゆかりが映り込んだ。
「おはよ」
鏡越しに目を合わせる。
「ん。おはよ」
まだ寝起きのテンションで目を擦りながら、ゆかりの両手が俺の腰に回される。
「おい」
その手に自分の手を置いて、やんわりと解いた。
「昨日」
半分眠ったような声を出して背中に頬をすり寄せるられる感覚が、脇腹から伝わって、背骨に突き抜ける。
「仕事行くから」
ゆかりの言葉を遮って、その腕からも逃げ出す。
まだぼんやりした顔のまま、ゆかりは俺を見ていた。
「8時には帰る」
そう言い残して、
いつものように部屋に鍵を掛ける。
そこに置いていく全てに。
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