第16話 016

その夜は、なかなか眠れなかった。


何度経験しても、なかなか慣れない夜。

明日から、違う場所に通勤する。

明日から、全然違う面子めんつの長になる。


記憶を失くすくらい飲みたい夜だけど、二日酔いだけは絶対出来ない。


ソファーに沈み込んだまま、iQOSの煙を暗闇に吐き出す。

床に置いたiPhoneが何回か光って、メッセージの到着を知らせていたけれど、手に取ることもしないままにしていた。



「カズキ? 眠れないの?」


寝室に押しやったはずのゆかりが、遠慮がちに近付いて来る。


「これ吸い終わったら寝るよ」


iQOSを少し上げて見せて、

でも、ゆかりの方は見られなかった。


「あたし、こっちでいいよ? カズキ身体大きいから、ソファーじゃちゃんと寝れないでしょ?」


俺の反応なんて全く気にしない様子で、ゆかりが隣に腰を下ろす。


「や、だいじょぶ。俺、ふつーにここで酔い潰れて寝たりしてっから。気にすんな」


iPhoneを拾い上げて、アラームをセットする。

どうせ今夜は大して眠れないんだ。

ベッドだろうが、ソファーだろうが、大差はない。

加熱の終わったiQOSから中身を抜いて灰皿に置く。

iQOSも、iPhoneも、充電器に繋がってるのを確認してから、

「ほら、お前も寝ろ」

ゆかりに、シッシッと手を振った。


お前がそこにいると、横になれないんだよ。


無言で、そう訴える。


なのにゆかりは、隣に座ったまま。

俺の顔をずっと見ていた。

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