第15話 015

「ルールを決めます」

「はいっ!」


翌日。3連休の最終日。

午前中にゆかりの必要最低限の買い物を済ませた俺たちは、大量に買ったケンタッキーをテーブルに置いて、向き合った。


俺のアパートは、2DKだ。

玄関を上がると右にトイレ。左にシューズロッカー。

正面にドアがあって、その先にダイニングキッチン。

キッチンは、入って右の奥。その手前の右に、ユニットバスと洗濯機や洗面台のあるスペースへのドアがある。

ダイニングテーブルは置いていない。

でも、真ん中になぜか、ソファーが置いてある。リビングでもないのに。

そのダイニングの向こうに、部屋が二つ、並んでいる。

向かって左が寝室。

右が、リビング代わりの生活空間で、そこに、テレビとテーブルがある。

南向きの一階で、リビングにしている部屋から、小さな庭に出る事が出来るけれど、出た事はない。

洗濯物と言っても、俺一人分なんて、ドラム式で洗濯から乾燥までしてしまえば、干す事もないからだ。


ルールを決める、と、意気込んでみたものの、ゆかりの目はケンタッキーに釘付けだ。

どんだけ常時腹ペコなんだよ。


「食べていい?」

「ルールが決まったら」

「食べながらでも考えられるよ。あったかいうちに食べよう?」

「だめ」

「けち」

「さっさと決めればさっさと食える」

「じゃあさっさと決めてよ。あたし、カズキの言うことなら何でも聞く」


正座したまま、もじもじ左右に揺れているゆかりは、何だかものすごく可愛い。

困ったことに。


どっちかって言うと、男を滅ぼすタイプの子に見える。

金を引き出すことくらい、少し罪悪感を捨てれば簡単に出来そうなのにな。


「何でも?」

「何でも。あ、でも、殺されるのはいや。生きてたい。痛いのもヤダ。無視されるのもやだし、お腹減るのも無理。あと、あたし、料理できない。お掃除も苦手。あと、、、」

「まだあるんかい!」

「え?」

「料理と掃除くらいしろ! 俺が仕事してる間にそれくらい出来るだろ!」

「えー、、、」

「えーじゃない! 放り出すぞ!」

「それは一番やだ」


不満たっぷりな表情で、肩を竦めて、俺を上目遣いで見てくる。

そんな顔しても無駄だ。

と、自分に言い聞かせて、深く息を吐く。


俺の生活。俺の人生。

決めるのは、俺であって、こいつじゃない。

真当な事を言えばいいし、当然の権利を主張するだけだ。

100%、俺の方が立場は上なんだ。



「俺はお前の借金を返して、生活費を出す。だからお前は、俺の生活の役に立て。

 苦手とか知らねー。お前は、家事をしろ」



出来る限りキッパリとそう言い放って、ケンタッキーを鷲掴みにした。

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