第13話 013
「カズキ!! お腹減った!」
玄関のドアを開けると、待ち構えていたんだろう。朝と同じ格好のゆかりが、地団駄を踏んでいた。
無言ですり抜けて、ダイニングへのドアを開ける。
うん。
何もかも、朝のまんまだ。
「カズキカズキカズキカズキ!」
追いかけて来たゆかりが、後ろから腕を腰に巻きつけてくる。
「なんだよ」
それを引きずったまま、寝室にしている部屋に入って、電気を点けた。
「夜のエサちょーーーーーだい!」
「はいはい、わかったから。着替えくらいさせて」
細い腕を剥がして、コートとジャケットとネクタイをハンガーに掛ける。
ベルトに手を掛けたところで、後ろを振り返ると、ゆかりはニコニコしたままそこに立っていた。
犬の『待て』みたいだ。
「あのさ、俺、着替えるんだけど」
「ん?」
「ん? じゃなくて。出ていくもんじゃね? フツー」
俺の言葉に、キョトンとして小首を傾げている。
ああ、そーですか。
見慣れてますよね。
もう、突っ込むのも面倒くさい。
そのまま、ベルトを外してスラックスも脱いぐ。と、
「そーゆーことかぁ!」
「なに?」
シャツのボタンを外す俺の前に、ゆかりが回り込んで来た。
「なるほど」
「え?」
ワイシャツにボクサーパンツという、情けない格好のまま、ゆかりを見下ろす。
「だって、ほら、トランクスとボクサー、両方あったから。どっち派なのかなー?って思ってたんだけど。今日はボクサーだから」
ゆかりの指先が、ツン、と、際どいところを突く。
「っ、うるせぇ!」
思わず身を
「休みの日はトランクスなんだよ!楽だから!スーツの時はボクサー!」
素早くシャツとインナーを脱ぎ捨てて、ベッドに畳んでいたパーカーとスウェットを着る。
ゆかりは、ふーん、と唇を尖らせてから、
「トランクスって、なんか可愛いよね」
そう言って、ニカっと笑った。
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