第8話 008

「で? 名前は?」


iQOSにタバコを突っ込んで、小さなボタンを長押しする。


「ゆかり。永坂ゆかり」


「いくつ?」

「23」


煙を吸い込む前に、大きなため息が溢れる。


確かに可愛い。

というか、美人だと思う。

真っ直ぐな長い髪。

猫のように大きく、少しつまみ上げたような目尻。



「悪いんだけど、俺、キミを買ったこと、覚えてないんだよね」


煙を吐き出して、フローリングに正座しているその子から目を逸らす。


「酔ってたんですね?」


わざと抑揚を抑えたような言葉には答えないまま、煙を連続で吸い続けた。


引いていた二日酔いが、目眩にも似た不快感と一緒に戻って来る。


「悪い。もう少し寝るわ。テキトーにテレビでも見てて」


吸い終わらないままのiQOSをテーブルに置きざりにして、

文字通り頭を抱えて立ち上がった。

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