第5話 005
今時珍しい紙タバコから漂う煙が、蛍光灯の光に吸い込まれるように消えていく。
もうどれくらい、こうして座っているのか。
5分と言われても、一時間と言われても納得出来るような気がし始めた頃。
その男が言葉を溢した。
「まぁ、どのみち、受け取るしかないっすね」
男の隣には、やけに貧相なガキが縮こまるように座っている。
一見対等なような構図で、俺とその男は向き合っていて、
一見対等なような見た目で、友達のように見えるかもしれなかったけれど、
筋肉の繊維の一筋から、
出来が違う。
と、
俺の神経全てが訴えている。
「帝国生命さんですかぁ。
めっちゃ大手じゃないっすか!
あ、ご結婚なさってるんですねー。いやいや、さすがです。
年収800万ってところですか?
いやー。
いいお買い物なさいましたよ!
僕も安心しました」
冷めたコーヒーを見てそれより冷めた汗が背中を伝う。
よくぞまぁ、コーヒーを出したと、過去の自分を褒め称えたい気分だ。
「月々398ですよ。
本当によかった!
貴方なら、僕がまたお尋ねする必要は全くなさそうだ!」
コーヒーに口を付けないまま、大袈裟に両手を広げる男に、情けないほどに曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
俺は買ってしまったのだと、思い知るしかなかった。
月々39800円のカノジョを。
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