第13話 ファミレスで恋バナ(?)
学校を出て、俺と譲葉は学校近くのファミレスに向かった。
結局今日は眠ることが出来なさそうである。心の中で周防に謝りながら入店。人はあまり居なかった。
「もう少し歩けば大きいファミレスがあるから、うちの生徒も皆そっちに行っちゃっててね。この店、正直人気無いんだ。逆に、だからずっと居れるんだけど」
注文したのはドリンクバーのみ。譲葉は結構頻繁にこの店に来ているようで、慣れたものだった。俺はというとあまりこういった場所に馴染みが無いので、どうにも落ち着かない。
「他に何か頼みたかった?」
そわそわしている俺を見て、譲葉が不思議そうな顔をする。
「いや、単純に慣れないだけだ」
俺は烏龍茶をちびちび飲みながら答える。そこまで見るからにそわそわしていたのだろうか。だとすれば、少し恥ずかしい。
「ファミレスくらい、普通の高校生だったらちょっと寄ったことくらいあると思うけどね」
譲葉はちょっと困ったように笑う。
「圭くんって、あまりにも遊びを知らないよね」
真っ赤なストローに、譲葉の柔らかそうな唇が吸い付いた。オレンジジュースがコップから消えてゆく。
「逆にお前は遊びを知りすぎだろ。火遊びなんてもんじゃないぞ」
男を取っ替え引っ替えとかのがマシな気さえしてくる。先生との恋、しかも二人きり空き教室に行く程の仲になるというのは、そうあることじゃないと思う。
「私は火遊びのつもりなんてないよ。隣のクラスの〇〇くんが好きーとか、〇〇先輩と付き合ってるとか、そういうのと同じ。偶々相手が先生だっただけで、さ」
譲葉はストローでオレンジジュースを少しだけ回した。
カラン。
氷とコップの触れる、涼やかな音。
その様を見つめる譲葉の瞳は、妙に大人びていて。
「……まぁ、冴島先生も色々悩んでいるようだったし、こう、あんまり危ないことはしないようにな」
「それは勿論。可能な限り危なくないよう努力するよ」
「どうとでも取れる言い方をするな」
「まぁ、大丈夫だよ。先生、優しいし。優しいから流されているだけで、私のことをそういう風に見れてないのも、分かってるから」
何だか、友人の恋愛話を聞くというのは、結構むず痒いものなんだなぁ。まぁ、恋愛モード全開の女子が相手だからっていうのもあるのかもしれないが。
しかし譲葉は、思ったよりかは冷静らしかった。その冷静さを冴島先生の前でも発揮してもらいたものだが……。
「というか、私の話は良いんだよ。圭くんがあの部屋に鍵を開けて入ってきた理由をお聞かせ願いたい」
「……あぁ、うん。そうだったな」
結局どう答えたものか……下手に話すとボロが出そうで嫌だ。
この期に及んで俺はまた黙り込んでしまった。
「やっぱり、周防さん関連?」
すると、突然譲葉の口から周防の名前が出てきた。
「え、何で知って……」
「先生から聞き出したんだよ。私とのことがバレて、あの部屋を貸してるって」
「あ、そうか……」
考えてみれば当然のことである。先生との関係を考えれば、譲葉は周防のことを聞かされていても何も不思議なことはない。
「今の反応からして、周防さんが関わってるんだね」
「……まぁ」
さて、ここからどう話すか。周防との関わりはバレてしまったから、そこから無理なく話を繋げるには……。
「やっぱり、付き合ってるの?」
まぁ、こう来るとは思っていた。確かに、男女が空き教室で二人きりという状況をイメージすれば、そういう風な話になるのは当然だろう。譲葉は先生とのことがあるから余計にそう思うかもしれない。
「それなら、安心なんだけど」
譲葉は大きな窓から見える大通りへ視線を向けた。
「安心?」
仮に俺と周防が付き合っていたとして、それって譲葉に関係あるだろうか。まさか友人である俺が天涯孤独になることを心配していたわけでもあるまい。
「周防さんと先生って、昔から家族ぐるみの付き合いなんでしょ? 二人の時は下の名前で呼んでるし、ちょっと怪しいっていうか……」
言いながら、語尾の方は何やら口をモゴモゴさせる譲葉。
俺もこの数日に空き教室で聞いた二人の会話を思い返してみたが、確かに仲が良さそうなのは間違いなかった。とはいえ、互いに恋愛感情なんて一欠片も無さそうだが。
「恋人って言うより、兄妹みたいな感じがするけどな、俺は」
そういえば、冴島先生は周防の兄と友達だと言っていた。それを考えると、先生が周防を妹のように思っていてもおかしくはない。
「妹みたいに思っていた幼馴染をある日突然意識して……みたいなのって、結構少女漫画であるんだよ!」
「そういうもんか?」
俺は少女漫画など見たことが無いので、その内容も信憑性もよく分からないが、譲葉が言うのなら、多分そうなのだろう。
「だから、私としては周防さんが圭くんと付き合っているなら、危険分子が減って安心……いや、ちょっと複雑かも」
譲葉が俺をじっと見て、難しそうな顔をする。
「安心なんじゃないのか?」
「いや、友人として、周防さんと付き合うのはあんまり良いとは思えないかな。十中八九付き合ってないと思ってからからかったりしたけど、実際にそういう関係だとしたら、ちょっとね」
オレンジジュースを一口、譲葉は話を続ける。
「陰口みたいだからあんまり言いたくないけど、やっぱり素行は良いとは言えないし、やるべきこともやらず怠けてるし。大切な圭くんがそんな女の子の毒牙にかかるのはちょっと見てられない」
「毒牙って……」
大仰な表現に、俺は困惑してしまう。
「何より心配なのはね」
譲葉が、自らの眼鏡をくいと上げる。
「二人が付き合ったら、間違いなく圭くんが尽くしまくることになるってことだよ。真面目な圭くんのことだから、きっと可愛い彼女の為なら何でもやっちゃうでしょ」
譲葉は自信ありげだったが、実際は不正解である。むしろ、俺が周防に世話になってばかりだ。
その事を考えると、恩人がこのまま言われっぱなしなのはちょっと申し訳ないように感じてきた。
「……まぁ、付き合ってはないんだけど」
取り敢えず、それだけは否定しておく。
「そうなの?」
譲葉はほっと胸を撫で下ろした。
「でも、あいつは確かに寝てばっかで生活態度はどうかと思うけど……
悪い奴じゃ、ないと思う」
譲葉の態度にむっとしてしまって、俺の口は勝手にこんなことを言い出した。
一度溢れた言葉は、戻ってはくれない。
「俺は、結構好きだ」
それは驚くほど正直な気持ちだった。言うのに大した照れも要らなかった。恋愛感情とかでは無いけれど、俺は結構、周防のことが好きだった。珍しく深く関わった人間だからだろうか。
「あのさぁ」
頭上から、声がした。聞き覚えのある声。間延びした喋り方。
「これ以上人のこと好き勝手言わないでくれる?」
上を見ると、そこにはテーブル同士の仕切りに寄り掛かる周防の姿があった。
「え? 周防?」
後ろの席に、周防が居る。用事の帰りだったのだろうか、結構小綺麗な私服姿。髪型も普段の適当なサイドテールを下ろし、綺麗に整えていた。精一杯のお洒落、といった印象だ。
「周防だけど、何? なんか文句あるの?」
混乱する俺に、周防はぶっきらぼうな返事をした。
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