第3話 ルオ
僕がリリーとルオのくちづけを見たのは次の日の放課後だった。リリーはあの十字路で昨日僕にやったのと同じようにルオの耳に顔を寄せ、何か囁いていた。僕は十字路近くの生垣に隠れて二人を盗み見た。
ルオは僕の家の近くに住む同級生だけれど、特に仲がいいわけでもない。決定的な何かがあったわけではないのに、心のどこかにわだかまりがあった。
三年前、僕たちが四年生だったころ、ルオの兄さんがバイクの事故で命を落とした。僕も学校の制服を着て葬式に出たけれど、そのとき人混みの中からちらちら見えたルオが何を思っていたのかは分からない。何に対しても興味を示さない冷ややかな顔をして両親のそばに立っていた。悲しいとか寂しいとか虚しいとか、そういった感情を見ることはなかった。僕が知っている普段通りのルオだった。
リリーはずいぶん長くルオの耳に唇を寄せていた。腹の辺りで互いに甘く手を繋いでいる。
三年前、兄を失いながら何の感情も浮かべなかったルオは一体何だったのか。目の前のルオは唇を引き締めて妙に大人びた微笑みを浮かべ、リリーの囁きに身をゆだねている。
『ルオは好きな人いないの?』
『どうかな。いなきゃいけないかい?』
そんな囁きが聞こえてきそうだった。
心を侵食されまいと警戒心をあらわにしていた僕とは違って、遠目に見るルオはテレビ俳優のように上手くリリーを扱い、ドラマごっこと言うべきか恋人ごっこと言うべきか、村の少女たちが熱中している気まぐれな遊びに付き合っていた。僕より背が高くすらりとしていて、リリーと体を寄せ合う姿は絵になった。ルオは本当に僕と同い年なのか。僕より人生経験が豊富で何でも知っているような気がする。――僕の知らないようなことも、何でも。
二人は寄せ合っていた体を離すと、手を繋いだまましばらく見つめ合った。夕日を背に、計算し尽くされたような美しい影が十字路に伸びた。テレビの中の芝居そのものだった。
二人が何を囁き合い、その後、どんな関係になったのか、僕は知らない。
何か大きなものから逃げるように、僕はそっとその場を離れ、家まで走った。
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