ヘルメスとポセイドン

蒼狗

ポセイドンは何処へ

 涼しい空気が流れる丘の上。そこにヘルメスはいた。その表情は険しく苛立ちを隠せずにいた。

「やっと見つけましたよ。ポセイドン様」

 ヘルメスは岩に腰をかける男に呼びかける。

「ゼウス様がお探しでしたよ。早くお戻りください。こんな場所で何をしているんですか」

 ポセイドンはヘルメスの声には反応せず、そのまま彼方を見つめている。

「ヘルメス。私は常々思っていたんだ」

「……なにがですか」

 問いに対するなくヘルメスはさらに苛立つ。

「お前には空を飛べるサンダル『タラリア』があるだろう」

「ありますね」

「他の神々にも乗り物があるじゃないか」

「そうですね」

 ポセイドンが振り向きヘルメスを見る。

「私にはないんだよ」

「はぁ……」

 何を言い出すのだこの神は。開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。

「あなたにはヒッポカムポスの戦車があるじゃないですか」

「確かにある」

 ポセイドンは悲しげな視線をヘルメスに向ける。

「あの子達は陸上には上がれないんだ」

「はぁ」

 二度目のため息である。

「他の神達は空を、陸を進んで集まりに行くのに対し、私は海から歩くしかないのだぞ!」

 くだらない。その言葉をヘルメスはぐっとこらえた。

「それで、なぜはるばるこのペルーまで来たのですか?」

「ああ、他の神に相談したら生け贄で受け取った生き物が余っているらしくてな。それを譲ってくれるらしい」

 ペルーの神ということはアンデスの神だろうか。

「ちなみにどなたからで」

「パチャママさんだ」




 パチャママ。ヘルメスも詳しくはないが、アンデスの豊穣を司る女神だということは知っている。定期的に信仰をしている人々がある生き物を生け贄に捧げているという事も。

「ポセイドン様、これは?」

「リャマ」

 モコモコとした白い毛に覆われた四足歩行の生き物。それが首から『ポセイドン様へ』と書かれた札を下げ、二人の目の前に佇んでいた。

「これに乗って集まりへ向かうのですか?」

「意外と乗り心地はいいかもしれないぞ」

 ポセイドンがリャマの背にまたがるが、神の威厳などどこにもない。

「それだとただのペルー現地民ですね」

「うちに持ち帰って装飾品をつければいけるだろ」

 乗り心地が気に入らなかったのかポセイドンは険しい顔で降りる。

「いや、装飾をつけたところで威厳もなにも出ませんよこれは」

「いけるいける」

「いけませんって。あなた海の支配者ですよ。ギリシャだけならまだしも他の国の神に見られたら笑い者ですよ」

「うるさい! 善意でもらった手前返しに行けるか!」

「ミ○バケッソ」

「そもそも何柱かは徒歩で行っているんですからそこまで気にしてませんよ、移動手段なんて」

 そこでヘルメスとポセイドンは気がついた。何か声が聞こえたと。

「ミ○バケッソ」

 二人の視線の先にはリャマがいた。

「ミ○バケッソ」

「……ポセイドン様。これアルパカです」

「……アルパカの鳴き声ってこれなのか」

「極東の日本ではこの鳴き声で認知されているらしいです。なので日本産のアルパカでしょう」

「よく知っているな」

「だてにゼウス様の指示であちこち飛んでませんから」

 二柱の間に無言の時間が流れる。

「返してくるか……」

「私もお供します」




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ヘルメスとポセイドン 蒼狗 @terminarxxxx

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