第3話 目打ち

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 呪う。という行為について考えよう。

 世界との関りを良好なものから良くない状態へと持っていく。ここでいう世界、とはいわゆる個人が認識できるだけの領域でもいいし、分かりやすく宇宙の中の銀河系一個分で考えてもいい。

 呪文や道具を使って対象物に因果を集中させる。当事者にとって都合のよくない事象をより合わせて、一本の糸を紡ぎあげるようなものだ。

 世界に括られた無数の糸をたった一本までに絞る行為だ。確定された不都合な事柄しか起こらない。想定通りにしか動かない。一切の意図を許さず強制する糸だ。

 人によっては運命を決する、とでもいうのだろうか。

 運命の糸に縛られている。気がつけば雁字搦めだ。

 そういった意味では、私たちは常日頃から呪われているのかもしれない。

 もっとも、選択肢を絞られることさえなければそこから逃れられるのだし、その点私は好んで囚われになった変人だと自覚している。

 魔術師になる、などと間違った方向に覚悟を決めてしまった10代初期の河良弥来少女はその時点で自分自身を呪ったのだろう。

 ともすれば、それよりももっと前。

 まだ、河良弥来カワラミライという、人間だった頃。

 最愛の友人をこの手で屠ったその日に、私は呪われた。

 ある人はカミと呼び、ある人は運命と呼ぶ存在に、である。




 一番最初に引っ掛かりのあるところから思い出そう。

「査問会議だな。ある世界が丸ごと消失したことを追及されていたはずで、直接か間接かはさて置き、私が原因だった」

「そこは正解です」

「わあい」

「全然うれしくなさそうですね」

「当たって嬉しい訳ねーだろ……」

「そう、またせんぱいのやらかしです! 『またやっちゃいました?』みたいなノリでいると一族郎党皆殺し系の案件です」

「よし。事の重大さは把握できた。もうこれで当たりにしてくんない?」

「ここでギブアップならそれでもいいですよ」

「……拒否する」

「ガッツだけは一丁前ですからね」

「簡単に折れるような精神構造はしてないんでね。そうじゃなきゃここまでやってこれなかった」


 ため息交じりに告げた。


「………………そうですね」

「ん。何か近いところ突いたかな」

「勘の良さを発揮しないでくれません?」

「そうやってさりげなくヒントくれる優しい天ちゃんがすきかなー」

「全く心が籠ってないじゃないですか」

「込めるだけの心が私にあるとでも?」

「折に触れてやさぐれるのは禁止です」


 はいはい、とすっかり脱線してしまった話を戻す。

 理由があってやらかしたはずだし、理由がないわけがない。理由がなければ私は満足に動くことすらままならないのだから。

 机の白い天板に視線を落とす。私がここから抜け出したいと思っていたのなら、必ず私はヒントを残している。抜き取られる前に自分に答えを与えているはずだ。天に気付かれる形であれば抹消されているかもしれないが、その限りでなければ答えはこの部屋にある。


 もしくは、私の中身にすでに答えがあるか、である。


 ……この手の行為は慣れている。自分のはらわたを覗きこむのに似ている。何度となくやって来た。自分の切れ端をかき集めるように。そうして、自分が霧散してしまわないように、必死に繋ぎ止めてきた。そうする必要が、あったからだ。


 なぜ?

 ざらりとした感覚があった。既視感のような。……何かに、目が合ったような。


「せんぱい」

 断ち切るように、天の声が差し込んだ。……天の声、というといささか大仰に聞こえるが、しょうがない。

「うん?」

 私はゆるゆる頭を振って応じる。

「髪、やってください」

 すっと櫛を取り出す天。

「あのね、天」

「何でしょう?」

「今頑張って思い出そうとしてるから後にして」

「邪魔しないとはわたし言ってませんけど? 元から手の治療と髪をやってもらいに来たので、わたしにとってはこの問答こそついでなんですから」

「さっさと終わらせるからな」

「雑にやるとやり直しですからね。無限に」

「拷問だ……」


 いそいそと天は方向転換し、すいと頭を私の方へと傾ける。よくこの状況で背中を見せられたものだと呆れを通り越してしまいそうになるが、あくまでアドバンテージは天にある。事実、私より天の方が能力の扱いが上手い。魔術師としてのキャリアは当然、天の方が長いのだから。

 とはいえ、一息に首の骨を折ることを私が躊躇わなければ関係ない。意識が残る間も魔術を行使するよりも早く天を始末してしまえば済む。私がそうしないことも、できないことも、もちろん私がこの場を逃れるためだけに友人の首の骨をへし折ることを一度は考えるだけの異常性を持っていることも、天は分かっていて平気な顔をしている。

 霜乃天ソウノテンは、そういう女だ。


「櫛」


 調度品同様に白一色の櫛は、大ぶりの剃刀のようだ。

 白い丸襟から、細い首がすっと伸びて、天の形のいい頭部を支えている。肩甲骨の中ほどまでのびたブロンドを片手で持ち上げると、なだらかな頸椎の凹凸がうなじに描き出されていた。

 無防備な首筋だ。


「天、さ。私が裏切るとは考えなかったわけ?」

 急に櫛を通しても絡まるばかりなので、指で軽く髪を整えてやる。本来ストレートの金髪があちらこちらに入り乱れていた。滑らかな絹糸のような頭髪が、指ですくたびに零れていきそうだった。


「例えば今、せんぱいが考えているような? 私の首を圧し折ることですか? せんぱいは、この状況で解決にもならないようなことをする人じゃないでしょう。だから、答えが分かるまで天ちゃんの身の安全は保障されています。他ならないあなたによって」

「随分信頼されたもんだ。私が嘘吐きなのはあんたがよく知っているだろうに」

 私は笑い飛ばす。

「ええ。信用ならないクレイジーで冷徹でお人好しなわたしのせんぱい。でも、あなたは裏切るようなことはもうしませんよ」

「もう?」

「今のは失言です」

 言った後でくすくすと天は笑った。

「わざとだろ……。はあ、そんじゃあ何か。査問会議の途中で何やかんやあって追い詰められた河良弥来は切羽詰まって協会を裏切った。うっかりか厚意かで見逃してくれたか別の意図があって、河良弥来は泳がされた。だが、あんたは河良弥来に謝罪をしてほしいと思っているから引っ掴まった。こんな具合か?」

「謝罪、とは違いますけど」

「その実あんたは私に何かを気づかせようとはしているものの、気付かせたくないこともある。私が気づかないままで自発的に諦めることを、期待している」

 正解でも不正解でも、そうだとは言わないだろう。


 天は浅く息を吸いこんで、吐き出す。仕切り直したのだろう。気持ちを? ああ、多分そうだ。もしくは、涙を堪えようとしているのか。それは考え過ぎか。

 けれど、そこに切り込むよりほかはない。自分はそれができる人間だ。


「あんたが私を留めておきたいように、私には裏切らなければならない理由があった」

 それが何なのかはわからないけど、と続ける。

「査問会議の記録、は……見せてくれないだろうな」

「教えません。だってそれ、答えですし」

「だよな。じゃあ、査問会議が開かれた理由を考えよう。任務にあたった魔術師が不当行為を行った時に開かれるのが通例だ。任務指定外の魔術師の殺害、一般人への過剰な干渉と殺害、魔術の神秘性を著しく損なうような行為、時間・空間を自己の利益のために歪める行為。あとは……なんだっけ?」

「……魔女を幇助する行為、ですよ」

「そう。目下発見されていない魔女を見つけ出すために、魔女は発見次第報告。然るべき処置の後、殺害しなければならない。……ってのが協会の方針だが。そもそも魔女がいる前提の取り決めだ」

「……魔女なんていませんよ」

 天は冷ややかに言った。先程の、返答のために一瞬みせたような躊躇もなく、否定した。

「わたしは魔女の存在の一切を認めません。魔女は、必ず始末しますが、魔女はいません」

「矛盾してないか、それ。私はてっきり、天が会ったことがあるのかと思った。『あんなの』なんて言うからには、対面したことがあってオマケに嫌うだけの理由があるんだと」

「嫌いですよ。魔女なんて。……大っ嫌いです」


「信奉者にロクなのがいないからですよ。狂信者と言った方がいいのかもしれませんが。魔女が過去に行った殺戮行為は認められません。彼女にいかなる理由があろうと、許してはならないのですよ」

「例えば……それが仕組まれたものだったとしても? ……ああ、いや。それでもあれは間違えようもなく、魔女の殺意だった。乗せられたものだとしても、同情なんかできるか」

「……せんぱいは、過去の魔女の犯行が誰かに仕組まれたものだと?」

「根拠はないけれど。それこそ、本人に聞いてみないことには確かめようもない。魔女に関する文献は図書館に行っても閲覧権限が……」

 机の上の本に目が留まる。魔女の魔力反応と被害状況をまとめた、資料。

「一介の魔術師には、ない……はずだ」

 声が上ずってしまうのを隠せなかった。


 そうだ。……なぜ、こんなものが私の部屋の机の上にある。

 しかも、資料の内容は頭に叩き込まれている。それほどまでに繰り返し、何度も読んでいる。まともに魔術の使えない私が自分の記憶野に魔術で強引に書き込んだことはない。

 魔力パターン。発生座標。その際に殺傷された人々の数。魔女がもたらした被害にもパターンがあった。被害は帝国が欲しがっていたある物体か、その物体を封じていた要所に多く集まっていた。ある物体――協会の前身となった旧帝国領にあったとされる、ある複合意識体の痕跡。


 魔女は、複合意識体を狙っていた。手に入れるためではなく、破壊のために。彼女が帝国を裏切った理由の一つはそれだろう。


 裏切った後、魔女は余罪を付けて追われ続けた。帝国の領民も意識体を熱烈に求めていたからだ。それは、ある種の信仰でもあった。魔女はそれを破壊した。……邪魔になったから。何の? 自分の? 自分以外の誰かの?

 複合意識体。ああ。あれは良くないものだ。領民の殺戮ですら、意識体は望んでいたんだから。

 だから。魔女は怒り狂った。

 文字通り、怒って、狂ったのだ。

 私は、知っている。記録には存在しない内容を、知っている。

 誰よりも世の中を憎んでいたはずの魔女は、そこに住まう人間を『死んで然るもの』と処断した意識体を許せなかった。

 どうして――。

 どうしてだと思う?

「死んで欲しくない人がいたから……?」

 言葉が口を衝いて、はっとなる。


 天が怪訝な顔をしていたので、慌てて尋ねた。

「その机の資料はあんたが?」

「……いいえ。ここは出て行く前のせんぱいの部屋ですから。用意したのは、せんぱいご本人ですねえ」

「私は、魔女の正体を掴んだのか? それか、何か、核心に触れた? ……魔女だけとは限らない。意識体かもしれない。あるいはその両方。私のいない間に協会は意識体を手に入れたのか」

「さあ。……もう境界にある、とも言われていますし、魔女同様伝承として処理しようとしている派閥も未だに残っています。魔女がいることが証明されてしまえば、意識体の所在も明らかになるでしょう」

「あんたとヤクはどっちに所属しているんだっけか」

「ヤクさんは中立派ですよ。干渉したくないらしくて。わたしは伝承派です。意識体――『大いなる意思』ですか。魔法に至る根幹であり、世界そのものであり、あらゆる運命を管理する存在、ですっけ? そんな胡散臭いモノ、あってたまるかってんですよ」

「そっちも嫌いか?」

「意識体も大嫌いです。……天ちゃんのだいじなものが、なくなっちゃいますから」

 呟きは雨音に溶けていった。

 手櫛から櫛に変えて髪を梳いていく。するりと流れ去っていきそうな手触りだ。けれど、消えたのは天ではなく私の方だったのだ。

 私が、居なくなったのだ。

「資料の内容は、今のあなたの頭の中にもあるでしょう?」

「あんたは抜いていないのか? ……とすると、私は結構長い間、あんたとこの茶番を繰り返している。失敗するたびに、あんたは繰り返している」

「おおーさすがはせんぱい。結論に辿り着くのが前回よりもちょっと早くなりましたよ」

「褒められてもな。結局あんた、私を解放する気がないんじゃないか」

「いいえ。わたしは、毎回、せんぱいから解放を求められ、毎回同じ条件を提示しました。『あなたが真相に辿り着ければここから出して差し上げる』と」

「それでも私はここから出て行くことを選ばず、さらには協会からも逃げられる自信がなかったのか、あんたに続けて捕らえてくれと頼んだんじゃないか? 資料を取り上げなかったのは……あんたなりの罪悪感」

「……それは、どうでしょうかね。せんぱいが、真実に耐えきれなかったときの、保険でもあります。答えに辿り着いたときに。思い出してしまった時に。あなたがあなたでいるための、保険です」

「私が、私でいるために」

 ええ。と天がほほ笑むのがなんとなしに分かった。

「本来因果は切り離せば戻らないものですが、あなたの能力は強すぎるんですよ、せんぱい。自分で手繰り寄せてしまう。私の宿敵みたいな能力ですからねぇ」

 声に出して、天は、可憐に笑う。

「わたしは、毎度せんぱいには負かされていますよ? ここから出て行くということを選ばなかったのはせんぱいです。あなたは大事なことを思いだしはしました。けれど、けれどね? せんぱい? 毎回、最後に頼み込んでいたのはあなたです。思い出しはしたけれど気づきはしなかった。今、せんぱいが納得がいかないのは『真実に至った自分がなぜまだここに居るのか』ということでしょう? 自分が出て行ってしかるべきだと思っていらっしゃる。けれど、事実は正反対です。しかも一回の偶然ではありません。ならばこの繰り返しが徐々にあなたを変質させていっているのだとしたら、ちょっと怖くないですか?」

「私は試合に勝って勝負に負けてる。けれど、あんたもあんたで毎回この茶番に付き合い続けている。あんたも多少なり私から影響を受けているはずだ」

 お世辞にもお互い、まっとうな神経をしていない。私たちはいわゆる、協会のはぐれものだし、私たちは元々そういう寄せ集めのチームだった。

「……付き合いは短くも浅くもない。今更だろ」

「揺らがなくなりましたねえ、せんぱい。元から、そういう風に出来ているだけのことは、ありますよね」

「元から? 出来ている?」

「あなたは、死体の寄せ集め。私たちははぐれものの寄せ集め。こんな偶然、あってたまるかって話ですけれどねえ」

「待て待て待て。なんで、私が死体だって知ってる」

「知ってますよう。我慢強い、わたしのせんぱい」

 やだなあ、と笑った天の声は堅い。

「そうでなければならなかった、なんて、本当、これだから魔女は嫌いなんです」

「耐えられるように、出来ている。そう、なるように、」


 半ばうわごとで私の口が喋る。意識から乖離している。途切れている。

 私の口は語る。受信した音を流すスピーカーのように。


『どこにいる。弥月ヤツキ。どこだ』


 私の声。私と同じ声。当然だ。

 彼女の告げた名前は、新しい名前だ。何かと何かを、繋ぐために得た名前。

 何を繋いでいる。誰を、繋とめるための名前だ。互いに仮の名前で私たちは存在を縛りあった。強く。ほどけないように。

おれはここにいる』

 私の耳はそれを聞いている。水槽に押し込められたようにくぐもって聞こえる。

 水槽。――培養槽。フラッシュバックした光景。

「……私はここだ。錯夜サクヤ。ここにいる」


 私ははっきりと返事をした。錯夜。錯夜。錯夜。片割れの名を口にする。空虚感の正体。だがそれも仮の名前だ。――本当の呼び名は別にある。本当の忌み名が。呪いあれと声高に叫んだ者の名が。


 彼女を納めるために、私は、元来空洞に出来ている。

 彼女は私を使うためにある。

 私は、彼女に使われるためにある。

 そのように、


 誰に? 誰に創られた?……おまえは、誰に創られた?


「私は」


 ぱちりと、パーツが噛み合ったような感覚があった。

 水が。水槽の水が干上がっていく。

 現実に、引き上げられる。


「せんぱい!」


 天が声を張り上げた。

 バチン、と、何かが途切れた。

 張りつめたゴムがちぎれた反動に近い衝撃が内側に走る。

 衝撃は発火し、脊髄から脳へと駆けあがった。

 持ち上げた髪を手放した。

 ふわりとブロンドが風に遊ばれたカーテンのように広がった。それが落ち切るより速く。


 私の手は、ナイフを突きつけるように、手にした櫛を天の頸動脈へと。あてがっていた。


「……せん、ぱい?」

「……っ、え?」

 ――私は。私は、なにをしている。

「っ、あ。天、違う」

 櫛を放った。

 何が違う? 

 冷静な自分が、目の醒めた自分が頭に張り付いている。さっきまでの私。目の醒めた私。


 自分が何をするかわからない。


 ほらみろ。不安定じゃないか。

 天から離れる。垂れさがっていたベッドのシーツに足を取られた。すっ転ぶ。尻もちをついて、まるで、足を掴まれたかのようで。頭が真っ白になった。視界が点滅する。


 天が椅子から駆け寄って来る。

「来ないでくれ。大丈夫、だから。でも、今……来ちゃいけない」

 私が言って、

「天、もう時間切れだ。もういい。もう、よせ。終わりにしよう。あれに邪魔だと認識されてはいけない。だが、今なら間に合う」

 目の醒めた私が、そう言った。

 時間切れ、なのだと。


「せんぱい。大丈夫です。大丈夫ですから」

 呼吸も鼓動も異常に早い。肺も心臓も無理矢理外から力をかけて動かしているように苦しい。当然だ。元から魔術で強引に動かしている身体だ。バランスが崩れればこういうことも起こる。

 私は何かで安定していた。自覚した欠落は、私の要石だった。あっては困るが、なくてはもっと困る。厄介で仕方がないが、確実に私の一部だったもの。それが私を探している。そちら側から、私を探している。

「これまでこんなことはありませんでしたが、まだ取り返せます」

 天はうろたえていた。治癒魔術を掛けるか掛けまいか、未発動の魔術が天の手元で淡く光っている。魔術を使って位置が探られることを避けているのだろう。


 私を探している相手。それが、誰なのか。決まっている。あるべきものをあるべき場所に収めるのだから。私から抜け出たそれが、元の居場所へ戻ろうと作用している。


「まだ、大丈夫です。こっちに、帰ってきてください。お願いですから」

 自明であるように脳髄は回答する。私の意識が覚えていなくても、私の脳髄は覚えている。


 ああ。私はいつだって自分で自分の引き金を引いてしまう。


「いいや。天。私はやっぱり、そっちには戻らないよ」

 いくら縁を千切ろうと、引き寄せてしまう。そんな風にできている。そんなふうに、作られている。自滅するようにできている。破滅願望よりももっと強固だ。それこそ、自分に課した呪いのように。

「戻れないんだ。……あいつが、私を探している」


 あいつ。――ロイド。かつて、河良弥来の名を捨て、ロイド・エスペラスという記号を付された、私の創造主。


 彼女の名前を口にした。

 彼女――魔女の名を。


「ロイド。私はここだ」

 

 私は、魔女だ。

 魔女の、入れ物だ。


 瞬間。治癒魔法が攻撃魔法へと切り替わったのを察した。

 空色の鋭い閃光が、私の喉笛へと差し向けられた。


「ごめんな、天」


 答えは実にシンプルだった。

 やはり、裏切ったのは私だったのだ。

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