贈り物

詩神エルナーに選ばれた者だけが魔法詩人になることができ、このような魔法を使うことができるのでした。

今、トワイナの詩集は、海を映していました。

港町ルコークから見える海が、本の上にはっきりと映し出されているのです。

詩天使はトワイナの書いた魔法の詩を読み上げて行きました。

テルフィンは、言葉もなくただ魔法詩の景色を観ていました。

水平線、海鳥、朝陽、きらめき。

海はまるでその場所にいるように本の上に浮かび上がって、生きた映像となっていました。

テルフィンは感動しました。

魔法詩はしめくくられて、詩天使の声はとぎれました。

残されたのは、海の光景と波の音でした。

「テルフィンさん。いかがでしたか」

トワイナがきくと、テルフィンは目に涙を浮かべていました。

「┅┅私の夢が、叶いました。海って、とても美しいのですね」

テルフィンはそう答えて、涙を指先でぬぐいます。

「よかったです。お役にたてて」

トワイナは本を閉じました。

すると、海の映像は静けさの中に消えました。

月光の下、たき火がパチパチと音を立てています。

「ありがとうございました。トワイナさんに、私からの贈り物を受け取ってほしいです」

テルフィンはメゲナの川で時折みつかる幸運の石をトワイナに手渡しました。

小さな石は青く光っていて、それはたいへんにめずらしく高価なものでした。

幸運の石を持つ者には、誠実な愛がおとずれる。

クーメルン王国では、誰もが知っていることです。

そこでいきなりテルフィンは、クスッと笑いました。

「お馬さんが、早く恋人を作りなさいって言っていますわよ」

トワイナがトンパを見ると、馬のトンパはつーんとそっぽを向きました。

「はいはい。わかりましたよ」

トワイナは幸運の石を服のポケットにしまいました。

「ああ。なんて素晴らしい夜だろう。┅┅ぼくはテルフィンさんのことを魔法詩にします」

「まあ。うれしいこと。トワイナさんの魔法詩になれるなんて。私、トワイナさんと会えて本当によかったです」

月の夜、しみじみとトワイナは旅の不思議を思いました。

テルフィンがトワイナの肩からはなれました。

「トワイナさん、これからもステキな旅を」

「ありがとう」

テルフィンはブルーの光になって、去って行きました。

トワイナはテルフィンと出会ったこの夜のことを、どのような詩にしようかと考えはじめます。

たき火は、ただトワイナの前でパチパチともえています。

トンパはトワイナの横顔を見て、少しうれしそうにしていました。

魔法詩人の夜。

トワイナはがりりとピキの実を食べました。






~おしまい~



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魔法詩人の夜 坂井 傑 @sakai666suguru666

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