第48話 理解と感情。
「待たせたね、ごめんね!」
この人はいつも元気だな。
そんなことを思いながらパタパタと向かい側の椅子に座る園長に話す。
「あのね、お父さんと、お母さん、まだ生きてる?」
毎回こうして、同じことを聞きに来るのだ。
ニコニコしながら園長は
「ご健在よ、会ってみる?気持ちの整理、ついたの?」
と答えてくれる、けれどこの日は違った。
「あのね・・・連絡が取れなくて・・・」
耳を疑った。
なんで?
あの人たち、二回も私を捨てたの?
どういうこと?
自然と涙が滲む。
会えないかもしれないと思ったら、いきなり会いたくなる。
「あのね、電話してもどちらも出てくださらないから、少し時間をおいてるのよ」
ある日を境に、両親からの電話がなくなって、園長は不思議に思い、どうなったのかと、家を訪ねたそうだ。
結良が独り立ちをして生きていくことに、自分たちが、足を引っ張ってしまったら申し訳ないという気持ちと、いつか会えるという期待をもつことはやめようと夫婦で話し合った結果、電話に出ることや、電話をすること自体が悪いこと、となってきたということだった。
私は安心した。
心底安心した。
会いたくなかったはずの両親なのに、また捨てられたという気持ちになるということは、私はとっくに気持ちの整理がついていて、そのことから逃げていただけなのだとわかった。
家に帰ったら、祐也くんがいた。
お互いの家の合鍵をお互いが持っている。
婚約中で、結婚にむかっていろいろと準備している最中でもあるから、どちらかの家にどちらかが泊まったりすることが多くなった。
祐也くんはカレーを作って待っててくれた。
食べながら、今日の出来事を話す。
両親のことを真剣に話し合った。
祐也くんは、私が一人で会うか、一緒に祐也くんも会うか、二択だと。
私は両親に会うことが怖かった。
大人になった自分を見せるのが怖かった。
一度、離れた子供はもう自分の子供だと思ってないものだと。
大人なんてそんな冷たいものと思っていた。
結婚することが決まって、家庭、家族の形が出来上がってくる今、大人はそんなに冷たくない気がしてきていた。
答えを出すことができないまま、夜が明けた。
望美と、仕事が終わってから、居酒屋で呑んだ。
望美は竹中さんとゴールイン直前。
望美たちはすでに、同棲していて、竹中さんが購入した一軒家に住んでいる。
とっても綺麗な新築の家で、望美のご両親も同居する予定らしい。
祐也くんと一緒にお邪魔した時の話もしながら、私はどうしたらいいのか、そんなことばかり言い、さほど強くもないお酒をがぶがぶ、呑んだ。
記憶がなくなるほどとは、こういうことかと。
目が覚めて、終電で家に帰って・・・。
その時に答えが出た。
祐也くんが、携帯のゲームをして待っててくれた。
「おかえり、呑んだねぇ!大丈夫?水をいれるね、さあさあ、早く、部屋着に着替えなよ」
そう言われながら、コップを渡された、その瞬間だった。
答えが出せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます