第47話 たくさんの決まりごと。
中学生に上がる前に。
引取りをされる女の子がいた。
私と同じ年の子だった。
数ヶ月生活を共にしていたが、母親の生活の安定で、引き取りの条件がクリアできたのだろう。
ただ、なぜここにきたのか、なぜ家に帰れるようになったのか、そういうことは、たくさんの決まりごとがあるなか、誰もが暗黙の了解のように、話し合うことはなかった。
引取りが決まったら、お別れだから、お別れ会をする。
忘れないでね、ずっと仲間だよ。
そう思うけれど、忘れて、幸せになって欲しいと思う気持ちもある。
必ず手紙を渡していたけれど、みんなどんな思いで、それを受け取っていたのか。
泣きながらお別れしたのに、1ヶ月立つか立たないかで帰ってくる仲間もたくさんいた。
生活習慣についていけないとか、そういうのではない。
いわゆる、虐待が再発した、それが一番多かった。
一度、虐待で施設に守られたとして、親が猛省して、引き取っても結局、慣れないことがあると、一番弱い立場である子供にしわ寄せがくる。
結局戻ってきて、
「ここが一番!」
と涙目で強がる仲間もいた。
私が中学生になる頃に数ヶ月一緒に過ごした仲間、えみり。
この子は今でも、望美ほどではないけれど、連絡をとったりしている。
えみりは引き取り後、母親と二人で懸命に生きてきて、今は入院している母親の見舞いに行って、帰りにたまに家に来てくれたりする。
私とは違って、また、彼女には彼女の強さがある。
本当に、引取りは羨ましいと思った時期もあったけど、いざ両親に会って生活したら、生活習慣も違えば、何もかも違うわけで、うまくやっていける自身などなく、複雑な思いのまま過ごしていた。
両親がみつかったときも、会おうと思えなかった。
望美はずっと話を聞いてくれた。
でも、自分に経験がないから、アドバイスも何もできないと。
聞いて、悲しみを半分、いや、全部とってあげたいと思ってくれていた。
えみりは、両親にあうべきだと。
本当の血のつながりは、決して消えない、そして、消せない。
だから、会って文句でもいいし、なんでもいいから話してきなよと。
迷いながら大人になり、園長から健在かどうかをたまに確認しては、
結局会えなかった。
どうしても過去の自分を捨てきれない。
なかったことになるという感覚だから、会うことを拒み続けた。
けれど。
私は祐也くんと婚約した。
祐也くんのご両親とご挨拶し、食事も何回もしている。
祐也くんのご両親にも自分の過去、施設で育ったことは話している。
自分の両親が健在しているにも関わらず、会うことのできない、もどかしい気持ちすら、理解しようとしてくれたのだ。
その話から、望美も、えみりですら、両親に会って、きちんと報告したほうがいい、今がタイミングだと。
気持ちがかき乱される。
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