第46話 生まれて初めて。

意を決して、祐也くんと向き合おうとした。

それにはとてもとても勇気がいる。

私の生い立ちを話すにはそれなりのタイミングが必要だった。

そして、同情されることなく、聞き流すこともなく、真剣な時間が必要だった。

絶対的な信頼関係でないと、話せないことでもある。


「あのね、話があるの。」

話したいことがあるの、って言おうとしたのに。

話があるっていうと、相手はかしこまってしまうのに。

「ん?どうした?何?話して、聞くよ、ちゃんと。」

少しだけ困った顔をしている気がしたけれど、もう続けるしかない、ここで、尻込みしてしまうと、一生話すこともなさそうな勢いだった。


生まれてから物心ついたころ、すでに児童養護施設にいたこと。

捨てられたのではなく預けられたと、園長の話では両親は決して、私を捨てたのではなく、預けたと。

高校受験の時に、両親が、どこかで健在だと知ったが会えずにいること。

施設での暮らし、たくさんの仲間、そして、両親の愛情を知らないゆえの冷たさを持っているかもしれない自分が時々怖くなる。

あれだけ泣くものかと準備していたのに、私の頬をつらつらと静かに、絶え間なく流れてくる。

同情されたくなくて、反抗期はずっと一人でいいと思っていたことや、両親に会うことを勧められたけれど、どうしてもそういう気持ちにならなかったこと。


複雑な思いは少し置いて、事実をありのままに話した。


「・・・そうだったんだね、今まで本当に強く生きてきてくれたんだね。」

驚いた様子はあったが、祐也くんはしっかり目を見て話を聞いてくれた。

「過去の積み重ねが今なんだよね、だとしたら、そうとうな苦労はあっただろうに、本当に話してくれてありがとう、ますます好きになっちゃったよ」

と、祐也くんはぎゅっと抱きしめてくれた。


落ち着いてきたころ、これからの話をしようと、祐也くんが言った。


きっと園長と同じように、両親に会おうと言われるのかなと思った。

でも、予想とは反した話だった。


「結良、結婚しないか?」


ん?しないか?

聞くの?

ん?

何が起こった?


不思議そうな顔をしていた私に

「ごめん、もう気持ちが・・・止まらなくて。」

真っ赤な顔の祐也くんが

「藤本結良さん、結婚してください、お願いします!」

ちょっと大きな声で、言いながら、私の前で頭を下げるゆうやくん。


話を聞いて同情したならもう少し違う答えが返ってくるような気がする。

かわいそうと思ったから?

でも、祐也くんの表情はそれらとは全く無縁の状態だった。


祐也くんの下げた頭ごと抱きしめて、その返事をした。


不安のない、なぜか、ほっとするような感覚を味わいながら・・・。



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