第37話 溢れるぶどうジュース。

祐也くんに振舞った料理は、とても好評だった。

とくに、炊き込みご飯が美味しいと言ってくれた。

私は炊き込みご飯は職員から教わったのだが、大量に作る分量から、少ない分量で計算をし直し、材料も工夫して、自分流の炊き込みご飯ができた。

作るたびに味が違うし、何とも言えなかったけど、今回はうまくいったようだ。

鯖の塩焼きの塩加減もちょうどよかったらしく、食べながら満足していしまい、いつもより、ペースダウンしてしまったのだが、祐也くんは、気づかない間に、私のペースに合わせてくれていた。

食事の途中、話すとき、一度、箸を置いて、身振り手振りをつけて話してくれる。その間、私の箸が止まったら、

「おいしいからたくさん食べよう」

とにっこり笑って、わざわざ箸をとめなくてもいいよというような雰囲気を出してくれていた。

心地いい・・・。

この人といると心地いい。

約2時間、二人で食事を楽しみ、デザートはフレッシュジュースの飲み比べをした。

ぶどう、りんご、オレンジ、マンゴー、マスカット。

私はぶどうやりんごが大好きだ。

ケーキはシンプルな小さなイチゴののった丸いケーキ。とても小さいけれど、生クリームの甘さも控えめでとてもおいしかった。


祐也くんは、3人兄弟の真ん中だと言っていた。

次男坊で、下は妹さん。

小さい頃はお兄さんとよく喧嘩をしたとか、妹さんが怪我した時に、すごく心配で、ずっと看病していたとか・・・。

その話を聞きながら、私は自分の番になった時になんて言おうか・・・。

ストーリーを考えていた。

たしか、ほかに人がいたとき・・・望美がいたら絶対に私にその話が回ってこないように、少し、話題を変えてくれていた。

よく考えたら二人っきりだし。


急に顔があかくなってしまった。


「え?そんなに今の話、おもしろかった?」

と、ニコニコしながら私を覗き込んだ。

目があった。

愛おしい気持ちが溢れ出す。

でも、表現できる方法が見つからない。

これといった小ワザもない。


と思っていたら・・・、祐也くんがおでこにキスをしてくれた。

私も祐也くんのおでこに・・・。


そして、ここからはきっと大人の世界になるのだろうと思ったけれど・・・。

おでこにキスを繰り返してはニコニコ、そして、またジュースの飲み比べに戻ったり。

肩を抱き寄せてもらって、少しゆらゆらしてもらったり。

なんだかドキドキすることばかりだった。


そんな時間はあっという間に過ぎ去り、終電近くなった。

祐也くんは、始めてお邪魔したのだから、あまり遅くまでとおもってなかったけれど・・・ついつい・・・と頬を赤らめて、帰り支度をしていた。

駅までついていこうとしたけれど、夜の一人歩きは危ないからって、帰ったら連絡するねと言われた。

ドアの前で帰り際、おでことほっぺにキスをしてくれた。

もちろんお返しも。


名残惜しいさが漂うなか、

「帰ったらメールするけど、眠かったら寝なよ」

と、言って、手を振りながら、玄関の扉を閉めた。

鍵かけろよと、ドア越しに聞こえた。

私は開けないで、

「うん!」

と返事をして、踵を返して、片付けを始めた。


名残惜しい、そして、愛情にあふれたこの空間で、今日は眠れると安堵しながら・・・。




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