第35話 ローテーブル
あの居酒屋以降、私と祐也くんは徐々に距離を縮めていくかのように、いろんなことを話した。
遅くまで電話で話したり、食事に出かけたり。
祐也くんは一人暮らしで、駅で言えば私の最寄り駅から5駅ほどになる。
職場に行く手前で電車を降り、徒歩15分ほどのワンルームマンションに住んでいる。
私もワンルームマンションだけれど、駅から徒歩10分。便利なところではある。
これも施設の職員が独り立ちするときに、見つけてくれた知り合いの不動産屋さんが安くで提供してくれている。
家賃はもちろん、私のお給料では少し贅沢なきんがくではあるけれど、ご好意に甘えて独り立ちしてからずっとお世話になっている。
そして、この家に、今日、祐也くんが来ることになっている。
初めて男性を招待した。
きっかけは、お互いの趣味やお気に入りのものを見せ合うことで、共有したり、とにかくお互いにお互いを知っていこうということになり、緊張感を持ち続けているよりもさっさと招待して、自分のことを少しでも知ってもらおうと思ったのだ。
駅まで迎えに行くことになっている。
メールがきた、祐也くんは、今から電車に乗るとのこと。
私は急いで、バッグを持ち、スニーカーを履いて、駅に向かった。
少し急いでむかったけれど、やはり電車のほうが早かった。
「ごめんね、待った?本当にごめんなさい!」
少し息を切らしていたが、精一杯謝った。
「大丈夫?待つことは必要な時間だからなんともないのに・・・」
そう言って、笑ってくれた祐也くん。
この人の優しさは本物だ。
なんとなく感じたけれど、本物の優しさと偽物の優しさって、感じとることができたりする。
「じゃあ、行こうか」
そう言って、ちょっと恥ずかしがってしまうけれど、我が家へ二人で向かった。
この道を祐也くんと並んで歩く日が来るとは思わなかった。
その、心が踊りだすような、そんな気持ちを抑えながら歩く。
祐也くんがそっと、手をつないでくれた。
自分の顔が絶対赤くなっただろうと思いながらただただ、前を向いて。
祐也くんと同じ方向を向き歩いた。
ご馳走とは言えない、ささやかではあるけれど、手料理を用意していた。
肉じゃが、ほうれん草の胡麻和え、鯖の塩焼き、炊き込みご飯。
祐也くんは、私がお酒を好まないことをわかってか、フレッシュなジュースをお土産に、ケーキまで買ってきてくれた。
二人で向かい合って、食事するには少し小さなローテーブル。
二人で向かい合って、緊張するほどの距離の小さなローテーブル。
この距離が今後心地よいものとなるのだけれど。
ゆっくりゆっくり時間を大切に、大切に流れさせた。
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