第31話 言い訳無用。

一つ秘密ができると、その秘密を隠そうと、また隠す。

嘘をつく。

私には両親がいない幼少期があり、つい最近両親の存在を知った。

いないものだと思っていたこの20年以上。

いきなり現れた現実にまだ受け止める準備ができていない。

そして、受け止めるには少し勇気が必要だと思う。

聞きたいことは山ほどある。

きっと、

「言い訳」だらけだと思う。

そんなことを聞くと、冷めてしまう。

すごく冷めてしまう。

熱くなるものもない。

真実か、否か、それすら私には判断できないのだから。


いつも誰かと話すとき、幼少期の話題になったとき、いくつ嘘をついてきただろう。

本当のことを知っているのは、望美だけだ。

そして、祐也くんにはまだ話せてない。

初夏、真夏をすぎて、秋口。

さんまがおいしい季節。

まだ、私には心を開くというより、

「両親がいた」ことにどうしても納得がいかない。

どうして、一緒にいられなかったの?

会いに来てくれたことないよね?

捨てたの?

嫌いなの?

産まなきゃよかったとか思ってるの?

そんな思いばかりがぐるぐるかけめぐり、軽くめまいをおこしてしまう。


だから考えないようにしていたし、また、ある程度、誤魔化したり、

人に合わせて、その時その時、職員と行ったことを家族ということにしたり、小さな頃からそういうことで顔色を伺うことがよくあった。


そんなことをしている高校生の頃。

自分がなんなのかわからなくなり、爆発してしまって、ちょっとした騒ぎをおこした。

進路について考える、そんなことも乗り越えて、高校へと進路を向けて、いわゆる一番楽しい時期ではあるけれど、一番悩んだ。

みんな、親とは反抗期を少し落ち着かせていたのに私はなぜか反抗心が募るばかりで、同級生にはすでに家庭を持った子もいた。

なのに私は家庭がなく、この先も自分の家庭をもつことができるのかという、不安が湧き上がり、それというものはとんでもなく強く、私には一人で抱え、処理できるものではなかった。

あのままだったらもしかしたら、私は、人生をなめてかかり、ろくな大人になってなかっただろうなと思う。

反抗しても園長はじっくり話を聞いてくれた。

私の主張とはその時その時によって違うのだが、なぜかいつも、泣いて、園長に抱きしめてもらい、それから泣きつかれて寝てしまう。

私には両親がいなかったことが段々、年齢を重ねていくうちに連れて、その事実が邪魔になってきた。

そして、むしろ、

「いなくてもいい」存在になった。

きっと、本当の愛情がほしい裏返しだったのか、なんなのか、未だにあの時の感情はわからない。


そして、自分の就職の時、戸籍を取り寄せようと、職員にお願いし、役所にてもらってきた。

書類には両親の名前があった。

そして、現在地まで追える書類まで手に入れた。

そこまでする必要はなかったのだが、そこまでしてしまったのだ。

そして、存在を知って、怒りや悲しみや少しの希望や、複雑な気持ちになった。


園長にも会うかどうか、意思があるかきかれたのだが、どうしても会いたくない。

何故か会いたくない。

小さい頃の話を聞きたいとも思わない、覚えてないことを言われたくない。

本当に複雑だった。


会った時・・・小さな頃の

「結良」に戻った気がした。


たくさんの言い訳を聞くことになると思っていたのに、それよりも小さな頃の自分が出てきて、

「お母さん、お父さん」

求める気持ちが強くなったのを覚えている。



現実を受け止める、厳しい現実だ。




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