第29話 糸。

会社と家の往復でつまらなくもなかったけど、特別楽しくもなかった日常に、祐也くんという存在のおかげで少し、生活に華がでてきた。

私は自然のものを好む。

必ず、ローテーブルには花を一輪飾る。

今までは端っこのカラーボックスの上にちょんと飾っていたが、祐也くんと両思いになり、会う回数が増えてきて、ちらりと見た花がもったいなく思い、ローテーブルに移動させたら、それはそれで、とても部屋が華やかになった。ごちゃごちゃしたくないので物をあまり持たないけれど、一輪挿しは必ず持っている。

割れてしまっても必ず買う。


望美が珍しく約束もしていないのに、仕事終わりに我が家に来ると言い出したので、帰り道にスーパーにより、みょうがやネギを買い、素麺を茹でていた。

一緒に涼もう。

そうこうしていうるちに、少し元気のない望美がやってきた。


「ねぇ、恋愛って、難しいよね。」

開口一番がそれだ。

「何があったの?ビール?麦茶?」

と聞くと、答えないで冷蔵庫からセルフサービスかのようにビールを片手にグラスも取り出し、テーブルに座り、開けて、私に座るように促す。

とにかくグラスを乾杯してから、素麺を持ってこようと、立とうとしたとき・・・。

「・・・ゆーーーーーらーーーーーー!!!」

と言って、泣き出した。

ちょっとわからず、すぐに望美にかけより、抱きしめた。

「どうしたの、なにかあったんだよね?なに?どうしたの?」

しばらく落ち着くまで待って、望美からの言葉を待った。

時計の進む音と、望美がすすり泣く音だけが静かに響く。


「昨日ね、竹中さんと会ったの。」

落ち着いてきた望美は静かに話しだした。

喧嘩でもしたのかなと思いつつ、それはあってはならないと思っていた。

「待ち合わせの場所にね、少し早めに行ったんだけど・・・」

また、望美の頬に涙がつたう。

「そしたらね、竹中さん、女の人と話しててね、それが、この前の合コンの時の結良の会社の先輩。すごく仲良さげで、声もかけづらくてさ・・・。」

望美がいつになくしおらしいから、私まで泣きたくなる。

「そのまましばらく隠れてたの、で、メールがきてね、待ってたけど、仕事中なのかな?って。」

だんだん、望美が落ち着いてきたのがわかる。

「それでね、仕事がまだ終わらないって言ったら、わかったよ、会社の連中でも誘うってメールきたけど、」

望美がまた泣き出した。

泣きながら次に飛び出す言葉はわかってる。でも、静かに聞いておこう。

「その結良の会社の先輩と、どっか行っちゃったぁぁ」

望美はなぜそんなことをしたのだろう、なにも後ろめたいことなどないのに。

その場に行ってどうして、

「お待たせ!」って言えなかったんだろう。

そんなことを思いながら、号泣する望美をそっと慰めた。


しばらくして、また、落ち着きを取り戻した望美に、

「今日はいろんな意味で暑いから、そうめんんしたんだよ、これなら、お腹にも入るでしょ?」

というと、涙はでてるのに、ニコッとした望美がすごく可愛らしかった。

素麺を食べながら、いろんな話をしながら竹中さんに連絡をする勇気がでるように話をそっち側にもっていくのだが強情でなかなか望美は連絡を取ろうとしない。

でも、実際、なにもないと思う、そんな観察力を持つ私から、望美にメールするように強くアドバイスした。

その場で、望美はメールをした。

返事がくるまでは正直私も手に汗を握った。

そんな心配をよそに、竹中さんからは、あのあと、会社の連中を誘うつもりだったが、私の会社の先輩が、近くに魚の美味しいお店があるというので、食事をご一緒した、今度はそこに望美と行きたい、いいところを教えてもらってきたとのこと。

結局、竹中さんは望美を中心に思ってくれているのだ。

誰と行動しようが、望美を中心に物事を考えているということが伝わってきた。

「ゆーーーらーーーーーー!!」

今度は安心したのか、明るい声で少し涙ぐみながら、笑ってはしゃぐ望美。

私もホッとした。


結局、望美はその日泊まって帰ったが、楽しい夜となり、私も安眠し、朝は私の服を貸してあげてお互いに会社に向かった。


男女はもつれることがあってもどこかでまっすぐなのだ。


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