第25話 この子の産声。
結衣子のお腹はどんどん大きくなってくる。
男の子だったらキャッチボールがしたいな、女の子だったら、ピアノを習わせてあげたいな、二人で心待ちにしていた。
結衣子は臨月手前まで働いた。
さすがに臨月ともなればどんなに元気でも、働かせてくれない。
それよりももっと早く、結衣子には休みを取るように言っていたが、生まれてくる子に苦労をかけたくないと、ハツラツと働いていた。
仕事で、認められることがとても嬉しく、部品の小さなことも、大きなことも全て任され、俺はいつの間にか、40人ほどの部下を持つほどになっていた。
そして、毎日朝から晩までしっかりと働いて、借金ももうすぐ完済できるところまできていた。
11月、もうすっかり冬だ。
あたたかくしておかないと、赤ちゃんも結衣子も辛いだろうからと、
会社の先輩から、中古のストーブを譲ってもらった。
そのストーブの前で、結衣子はよくうとうとするようになった。
人生の大きな仕事が迫っているから、そっと毛布をかけてやり、お腹に話しかける。
「無事に出てこいよ、待ってるんだからな」
もうすぐ12月。
結衣子の出産予定日は23日だ。
でも、22日の朝、破水した。
タクシーをつかまえ、病院に向かった。
待たされてる間は心臓が口から出そう、とか、そんな言葉では言い表せないほどの感情だった。
分娩室は、結衣子の叫び声ではなく、隣にあるもうひとつの分娩室から聞こえてきた。
結衣子の部屋からはちいさなうめき声が聞こえる程度。
しばらくしてから。
時計の針が15時を指した頃。
結衣子の叫ぶ声と同時に、産声が聞こえた。
耳を疑うほどの可愛い産声は絶対に俺たちの赤ちゃんの声だと思った。
看護師が、分娩室によんでくれた。
消毒をして、入って、赤ちゃんを見た。
生まれたての赤ちゃんを胸に抱きながら涙を流す結衣子の姿を見て、よく頑張ってくれたな、そう思った。
言葉では言い表せない感動と、幸福感に包まれた。
結衣子に言葉をかけたいのだが、こみ上げてくるものがあり、なかなか言葉にできないまま、赤ちゃんとの対面。
そして、落ち着かせ、
「結衣子、頑張ってくれたね、ありがとう、可愛いね、よく頑張ったね、お疲れ様、ありがとう。」
何回もその言葉を繰り返す。
15時に生まれたので、おやつの時間だねなんて言いながら、その天使のような赤ん坊の名前を考えた。
赤ん坊の体重を測ったり、後産というものが終わったり。
そんなこんなで落ち着いてきた頃に二人で色々と出し合った結果、
俺の名前(良輔)の頭文字と結衣子の頭文字をとり、
「結良」
と名付けた。
結衣子はもうすっかりお母さんの顔になっているのに、おれはまだまだだなと思った。
この先、結衣子と結良と、またその兄弟ができて賑やかになるかもしれないが、その俺の家族を、命をかけて守ろうと、再度誓った。
結良に何処の馬の骨かもわからないような男がよってきたら、本気でぶちのめしてやるなんて思ったり。
幸せがこういうことなのかと、結衣子と結良を見て思った。
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