第23話 ぬくもりのある他人。
「得意料理はなんですか?」
そう聞かれた合コンでの会話を思い出した。
祐也くんに告白し、両思いなのだが、いまいちデートなどに誘える勇気がないことを悟ったかのように、映画に誘われた。
映画は好きな方ではあるが、映画館で、座席の予約やポップコーンと飲み物をカスタムするほどの熱量ではなかった。
緊張からか、私は、映画の内容が入ってこない。
竹中さんや望美がいない、二人だけ。
いや、この映画館に何十人とスクリーンに向かっているのだが、私は隣に祐也くんがいると思うとそれだけで緊張とどこからかときめきを感じていた。
そんなわけで、顔体はスクリーンに向いているのだが、頭の中では合コンでの祐也くんの質問の答えを答えていないというか、詳しく答えていない、そんなことをずっと悩んでいた。
私は自炊をするのでこれといって得意なものがないので、そのときは、
当たり障りのないことを言っていたような気がする。
でも、もし、祐也くんに作ってあげるとしたら・・・
ますます内容が入ってこなくなってしまった。
こうなったら帰り道でパンフレットを買っておこう、そして、話を合わせるしかない、そう思ったとき、ふと視線をかんじ、隣を向くと、祐也くんがこっちを見ていて思わず恥ずかしさに声が出そうになる。
にっこり笑って、手をそっと繋いでくれた。
もう、ますます内容など入ってこない。
ただただ、繋いだ手の温度、感触、大きさ、そんなことを意識してしまう。
そして、映画はクライマックスとなる。
内容はわからないが、ハッピーエンドだった。
エンドロールが静かに流れていく。
パラパラと、人が席を立っていくが、そんなに急いでもいなかったため、そのままスクリーンをみつめていた。
結局話が全くわからない、ただただなんだかハッピーエンドだったんだ、くらいにしか思わなかった。
ゆっくりと、あかりがついて、そろそろ出ようとなったとき、手を離さなきゃいけないとおもったけれど、私の荷物を持ったりして祐也くんはその手を離すことはなく、そのまま映画館をあとにした。
そして、二人でカフェに入った。
レモンティーを注文したその時、しまった、と思った。
映画のパンフレットを買い忘れたのだ。
手をつないだことに意識が集中してしまい、それどころではなかった。
そして、つないだ手を離したのは席に着いた時だったので、なんとも話題も出てこない。
「あのさ・・・」
祐也くんが、少し、笑いながら続ける。
「映画、おもしろかった?実はね、いつ手をつなごうかなってずっと悩んでて、映画の話が全く入ってこなかったんだよね・・・」
と言って、少し顔の表情が違った笑い方をした。
そして、理由は違えどお互いの事を思って、映画どころではなかったことに少し安堵した。
そして、私も少しだけ、ほんの少しだけ、打ち明けた。
「合コンの時にね、得意料理はなんですか?って聞かれた時に上手く答えられなかったことについて悩んでたら、だんだん緊張も手伝って、内容が入ってこなかったの、私も・・・」
そういうと、祐也くんは
「緊張してたの?なんか・・・ごめん、気づけなくて・・・肩こった?」
と、困った表情で話を聞いてくれた。でも、それが素敵な緊張であることをきちんと説明したことでお互いに、緊張の糸をほぐしていき、結局映画のタイトルまで忘れてしまうほど、全く違った話をしたのだった。
カフェから出て、すこし、歩こうかと言われた。
急に気が引き締まる。
祐也くんはそっと私の右手を大きな左手で優しく握ってくれた。
手をつなぐというのは、最初こそ緊張するけれども、こんなにも、癒しの効果があるのかと思うほどに、安心感でいっぱいになった。
そして、電車に乗るまで、見送ってくれた。
帰りの電車では、つないだ手がまだほかほかしてる気がした。
こんなにもうれしいことなんだと、こんなにも安心するものなのだと、私には新しい発見であり、他人のぬくもりを久しぶりに感じた。
他人が他人と結婚し、家族になる不思議が少しだけ、わかるきがした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます