第16話 ファミリー。

「お父さん」

「お母さん」

口に出して呼んでみた。

お父さんとは、お母さんとは、なんなんだろう。

私にははたして必要なのだろうか・・・。


私は、相手がいれば、愛し合い、結婚し、家庭をもち、子供を産むこともできる。

そうすれば、その生まれてきた子供のお母さんは私だ。

残念ながら、そんな想像は怖くてできない。

どうしても、小さい子をかわいく思えない。

お母さんにしがみついて泣いてる子供をみると、すごく嫌な気持ちになった。

正直に言うと、これも羨ましいという感情に似ている。

でも、実際自分が家庭というものを知らずに生きてきた。

施設はみんなが思うほど冷たいところではない。

他人が共同生活をする場所だ。

家庭の事情で、預けられる子がほとんどだ。

でも、二度と両親と会えなくなった仲間もいる。

そういう現実を目の当たりにしていて、私も両親に会いたいなどとは思えなかった。

一度会えば、また会いたくなる、期待してしまう。

そうなると、会えなくなった時、仲間のように、もうあえなくなっちゃった、って、ドライに言えない。

絶望だと思う。

私はそんなに強くない。


そんなことを考えながら、スーパーのレジを通った。


カレーを作る材料と、ワイン。

サラダともやしを買って、望美と過ごす約束をしている。


望美は両親と一緒に過ごしてきたけれど、とても温かい人間だと思う。

望美の両親にだけは心が許せるほど、かまってもらっていた。

施設から許可をもらい、望美の家に泊まりに行ったり。


今でも、望美とこうしてご飯を食べたり、買い物したりと過ごせているのはきっと死ぬまで親友でいれると思うのである。


今日はカレーを作って、望美を待つ。

ワインも用意した。

安物のワインだけど、飲みやすいので、今日は望美と語ろうと、いろんなものを準備してしまった。


20時を回ったころ、望美がニコッと登場。

カレーと、サラダと、ワインと、チキンで、乾杯。

望美からはスイーツのお土産を頂いたのでお腹のことを考えてゆっくり食べながら、話しながら。

望美は竹中さんと、メールでやりとりしていて、先日ご飯に行った後もちょこちょこメールをしているらしい。

私もあれからもずっと裕也君とはメールをしている。


望美は竹中さんに、告白をしたそうだ。

「で?で?なんて?」

と、食い気味な私をおさえ、

「竹中さんも私のこと気になってたから付き合ってほしいって。」

心がきゅんとする瞬間だった。

「おめでとう!!」

と、望美に抱き着いた。

でも、望美は、

「あのね、でもね、付き合わないの。だって、まだまだやりたいことあるし、付き合うとなると、真剣に付き合いたいし、向き合いたいじゃない?」

意外な答えになんといえばいいのか・・・。

望美はすごく自分のことをよくわかっていて、自己管理ができてるなと思った。

確かに、結ばれるのは幸せなことだけれど、それがなぜか障害になることもある。

恋に盲目にまではならないとしても、優先順位を間違えてしまいかねない。

不思議だけど、私は静かに納得して、

「そっか、両想い・・・だね!」

と、全てを受け入れた。

「ゆらは?祐也君・・・」

そうだ、私は酔った勢いで、祐也君に告白していた。

というか、祐也君に告白されて、なぜか、私からもきちんと告白をして、話がまとまらなかったのだ。

「なにそれ!ゆら、付き合おうっかってならなかったわけ?」

そういって、携帯を手に、望美が笑う。

「自分できちんとするから!」

照れてしまった。

「そうこなくっちゃ!!」

二人で、もう一度乾杯した。


恋愛から結婚に発展し、家庭を持つということにまだ、違和感のある私はつきあうということはただの遊びだと認識していた。

それを払しょくするくらいの大恋愛になることも、この時の私は知ることもなく、望美と笑ってたくさん話して、朝を迎えた。



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