第13話 手紙。

幼稚園で、手紙の書き方を習った。

真っ白な画用紙に、何本か線が横向きに引いてあって、

その線にそって、相手に伝えたい事を書くという。

「そうねぇ、じゃあ、みんな、おかあさんにありがとうをつたえましょう!!」

先生が言った、その瞬間先生とばっちり目が合ってしまった。

その時の私は5歳。

5歳の女の子が、25歳だか、26歳の女性に気遣いとも受け取れるようなことばを発する。

「先生、ゆらは園長に書くね!!」

と。

そして、同じ施設の子が同じ組だったから、その子にも、

そうだよねぇ、って園長に書こうって促した。

その時の先生の顔は忘れられないくらい、苦い顔をかくしてニコニコしていた。


初めて書いた手紙は、施設の園長先生に、感謝の言葉をつづった。

園長は女性だから、とても親しんでいたため、書きやすかった。

お母さんのような存在が今から思えば何人もいたことに幸せを感じる。ただ、職員なのだから、それはお仕事なのだが。

それでも、気持ちのない職員は人気がないのだから、人間の本能とはすごいものだ。


えんちょうへ。

いつもおいしいごはんありがとう

おふろのおゆはあたたかいです


ふじもとゆら


こんなかんじで、全てひらがな、しかも覚えたてのひらがなで書いた。

先生に預けた後、持って帰ったら、園長は、

「立派なお手紙ね、ありがとう!!」

と言って、喜んでくれた。

そして、なんと、お返事をくれた。


ゆらへ。

まいにちげんきでうれしいよ。

またいっしょにおふろにはいろうね

おてがみありがとう。


えんちょう。


こんな嬉しいことがあるのかというくらい嬉しかった。


園長はわたしが書いた手紙は園長室のよく見えるところに飾ってくれた。

同じ組の子のぶんも。

お返事も私だけではなく、同じ組の子、あいちゃんにもきていた。

二人で喜んで、ホームのお姉さんたちに自慢していた。


手紙というものは大切な人に感謝を伝えるものという認識に近いものがあった。

それはいまでも全く変わらないであろう、メールだとか、電子化してしまっていても、たまに、いまでも園長に、手紙を書く。

近況を報告するのだ。

毎月書いているのだが、忙しいだろうに私のことを気にかけてくれていることが伝わってくる、温かいお手紙。

施設から自立した18歳からずっと書き続け、ずっととってある、宝物の一つだ。


手紙は自分に素直になれる。

ペンを持ち、便せんにむかうと、時折、涙が出ることもある。

素直な気持ちが複雑に交差するとこうなるのだ。

それが、私の精神を清々しく、健やかにする、「儀式」なのかもしれない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る