第12話 嘘つき。

疲れたなぁ・・・と思いながら、今日もしっかり定時に仕事が終わることに安堵しつつ、スーパーに寄ろうと駅を出て、向かっていたその時、カバンの中のスマホがなった。


メールだ。

合コンの時のメール交換。

望美は竹中さんと、私は祐也くんと。

無事に踏んだり蹴ったりしながらもゲットした。

お互いに好印象だったのか、メールでも会話は弾んだ。


「おつかれ~何してる???」

祐也くんからだ!と、少し、モジモジしてしまったので周りを見渡し、誰も見ていなかったことを確認し、涼しげな顔で返事を考え打ち込む。

「今、仕事が終わって帰るところ!」

本当はスーパー前と、言いたかったけど、何となく家庭的強調者とも思われたくないし、まだ知り合ったばかりでもあるから、あまり行動範囲を教えたくないというのもあった。

「そうなんだ、今から竹中さんと飯行くんだけど、来ない?」

ジタバタしそうなくらい嬉しいメールだ。

合コンがあったのは1週間前。

1週間で、こんな進展・・・。

乙女のように頬を赤らめてみた。

そして、返事をする前に、セッティングの違和感に気づいた。

望美だ。

望美に連絡だ!!

すぐに望美にメールした。

ラッキーなことに今日は望美も仕事が早く切り上げられたらしい。

なので、祐也くんと竹中さんの話をしてみた。

望美は行きたいけど、私には連絡がない・・・と、少しひねくれ始めたので

すぐに、祐也くんにメールで、望美ももちろん一緒につれていくことを伝えた。

私と望美はどうやら、祐也くんと竹中さんにはセットだと思われているようだ。

私の会社の先輩は竹中さんを気に入ってたのだが、その後どうなったのかは聞けていない。

でも、恋というのは先手必勝と望美が掲げているスローガンをもとに、

望美と最寄駅で待ち合わせ、男子二人が待つ、居酒屋に向かった。

化粧直しを入念にしたのだろう、望美は今日も可愛い。

私はいつもとあまり変わらなかったが、リップの色をおさえ、アイメイクを少し直した。

居酒屋に着く手前で、緊張してきたのか、膝が笑い出す。

と、同時にワクワクしてくる感覚もあった。

望美に、

「今日、告る?」

って聞かれた時は、望美が告ると決めているんだなと確信してしまった。


店内に入って、案内された席に行くと、

「待ってたよ、急に誘っちゃったけど、先に飲んでたよ」

少年とも言えるような、なごやかな顔で祐也くんが言った。

竹中さんは軽く会釈し、その様子を微笑ましく見守っている。

竹中さんは私たちよりも少し年上だから、とても落ち着いて見える。

そういう人が、望美は大好きなことも私はわかっている。

祐也くんの向かい側に私、竹中さんの向かい側に望美、と座り、飲み物を注文して、乾杯。

食事もしながら、けっこう他愛もない話で盛り上がった。

そして、なにより、楽しかった。

望美の竹中さんへの憧れの眼差しも乙女そのものだし、私も今日ばかりはお酒の力を借りて、自己アピールしてやる、と、祐也くんとたくさん話した。

ただ、嘘ばかりだった。

幼少期の思い出の、お父さん、お母さんというのは全て職員。

そして、兄、姉、弟、なども仲間。

恥ずかしいわけじゃない。

今、幼少期の話をするべきじゃない。

複雑なことを話す段階ではない。

嘘を並べていくうちに、お酒はすぐに覚めてしまう。


そんなかんじで終電まで、楽しく過ごし、家に着いた。

なぜかシャワーを浴びながら、泣いた。


楽しかったはずなのに、私は孤児で養護施設で育ち、でも、とくに何不自由なく育った。

でも、お父さんやお母さんはいない。

それが今、この時点で言えることかどうかぐらい、わかっていた。

養護施設で育ったということへの偏見はないにしろ、そこに興味を持つだろうと思い続けているわたしのこの厚い壁。


打ち解けるほどに親しくなれるのだろうかと、嘘をついた罪悪感と、嘘をついてしまわなければならなかった自分の嫌悪感で涙が止まらなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る