第11話 ここほれわんわん

養護施設の夏休み。

私は物心ついた時にはここにいたので、ここから幼稚園に通っていた。

幼稚園バスがきて制服をきて、仲間と一緒に幼稚園に向かう。

夏休みは一か月半あったと思う。とても長く感じた。

私のように、小さいころからいる人たちもいれば、18歳までの男女が入り混じっている。

幼児さんと呼ばれる、小学校に上がる前までは、大人にお風呂に入れてもらっていたし、一緒に湯船に浸かっていた。

小学校に上がった時に男女が分かれてお風呂の時間となる。

遅くなると、一人ずつ入ることになるため、高校生なんかはすごく不憫だったと思う。


養護施設では、施設の犬として、雑種の犬を飼っていて、みんなで可愛がっていた。

洗濯物が干されるところが庭なのでそこに小屋があり、ふだんはつながれている。

養護施設の園長がいつも散歩に連れて行くのだが、幼稚園がない、夏休み、冬休み、春休み、休みと呼ばれるものは、すべて、一緒についていった。

犬の名前は

「ちび」だ。呼ぶと、よたよたしながら近づいてきて、私の手をぺろっとなめる。

ちびは施設に来た頃には、すでに人間でいうと、30歳くらいだそうで、結局人間でいうところの100歳をこえるところまで生きてくれた。

私が物心ついてすぐに見た動物はその、犬のちびだ。

後ろの右足が事故でけがをして引きずってはいたものの、よぶときちんときてくれる。

それはそれは可愛かった。

散歩のあと、水を与えたときに、しゃろんしゃろんと、音を立ててのむちびを、ずっとなでていて、蚊に刺されて顔がはれ上がったことも懐かしい。


そのちびが死んだのは小学校4年生の時だ。

忘れもしない。

私は学校から帰ってきたら園長がなにやら難しい顔をしていたのでなんだろうと、近寄ると、

「ゆら、ちびがね、さっきね、眠ったまんま天国に行ったよ」

聞いた瞬間、ランドセルを投げつけ、泣きながら、わめきながら、庭に出た。


庭に出たところで、履物がなく裸足で飛び出した。

不登校のお姉さんや、お兄さんが、ちびを布でくるんですすり泣いていた。

思い出は私にもあるけれど、お兄さんやお姉さんもあると思って、後ずさりした時、

お姉さんが気づいてくれ、私を呼んでくれた。

「もう、ちびはおばあちゃんだったからね、寿命なんだって。110歳くらいだったらしいよ。ちゃんと昨晩、ご飯も食べてたんだって。戻さなかったんだって。」

と、言い、泣いていた。

その頃の私には寿命というものがわからなかった。

なぜ、ちびは天国に行ったのか。

ぬいぐるみの犬は何も言わないし、動かないけどずっと一緒にいれる。

でも、生きた犬は死んじゃう。

わからなくなり、わめき散らして泣き叫んでいたら、学校から帰ってきた仲間たちがぞろぞろ。

庭がうまるくらいになった。

その中で、泣きすぎて、疲れてしまった私は、職員におんぶされて寝てしまっていたのだ。

夕飯の時間に目が覚めて、ちびのところに行くと、小屋はあるのにちびはいない。

やっぱり夢じゃないんだとまた、泣き叫んだ。

職員が慌ててこちらにきて、抱きかかえてくれた。

ちびに会いたいというと、内緒でつれてってあげるといって、少し涼しい場所に、かごの中に眠ったちびを見つけた。

明日、火葬されるということを意味が分からないまんま伝えられたが、

「ゆら、ちびに天国にもっていっていいよ、ちびにあげるよ、っての、ある?」

と聞かれて、しばらく考えた。

手紙を書き、その時にちびにじまんしていた消しゴムの半分をかごにいれてほしいと。

もう半分は私が持っておきたいといって、泣き叫んでいた私は、なぜか、お別れする、心の準備が整ってきた瞬間だった。


次の日、泣きながら書いた手紙と職員にお願いしてカッターで切ってもらった消しゴムをかごに入れて、冷たくなってたけれど、ちびをなでた。かごごと抱きしめて、

「ちび、ばいばい、虹色の橋があるからね、そこを渡ったら天国だからね!!」

と、絵本で見たものだったけれど、ちびに伝えた。


あの時の消しゴムはまだ、私のお守りとしてとってある。

高校受験の時や就職の時、その消しゴムを小さなきんちゃく袋に入れて持っていた。



生死に関わった初めてのことだった。

でも、命の大切さ、限りある命を、どう全うしていくのか、ちびに教えられた気がする。


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