第10話 恋は盲目

「初めまして、藤本結良です、近藤さんと同じ職場で働いてます、よろしくお願いします。」

合コンというものは初めてで。

なにを言えばいいのか、社交辞令的な言葉で埋め尽くした。

遅れてきた友達、望美もなにやら小洒落たことを付け句湧いて話していた。

男性4人が挨拶、自己紹介を始めた頃から私の心臓は肺をくぐりぬけ、食道に侵入し、喉から飛び出んばかりに、鼓動が早まっていた。

なにを言おうか、この、目の前の4人の圧迫感。

それぞれの顔を見るのですら、ままならない状態だったのに・・・。

私以外の、女性陣は何度か場数を踏んできたかのように、流暢に挨拶、自己紹介を終えるのである。

望美が自己紹介を終えたあとに、そっと、望美の方をチラ見すると、望美は流石だなと思った。

男性陣の顔を順番に見てはニコニコしている。


と、挨拶も、自己紹介も終わったところで食事にとりかかる。

注文はご挨拶前に済ませていた。

粗相があってはいけないと思い、アルコールを注文しなかったことに後悔する。

そして、息苦しさを感じ、一度、お手洗いにと望美につげ、席を立った。


お手洗いに入った瞬間、肩の荷が下りるという言葉が一番良く合う感覚があった。

会社の先輩の数合わせみたいなもので、先輩にはこの合コンに意中の男性がいるのだ。

盛り上げ役とでも思われてたら、すごく申し訳ない。

誘った望美にも申し訳ない。

親友である望美は私のたった一人の友達と言っても過言ではないかもしれない。

その望美に声をかけたとき、

「ゆらちゃん、春が来るよ!!春が!!」

って、カフェのテーブルで前のめりになって興奮していたことを思い出す。

望美は楽しんでくれてるだろうか・・・。

そんなことを考えながら、用も足さずに、手をゴシゴシ洗い、テーブルに戻った。

「大丈夫?緊張してるんでしょ?のんに任せて!」

望美は時々、じぶんのことを、(のん)という。

それも、何かに必死なときに発する。

きっと、私がとけこめるように考えてくれてるんだろうなと思った。


と、そんなこんなで運ばれてきた料理が、あまりにも美味しく、丁寧にゆっくり味わっていた時。

ひとりの男性が話しかけてきた。

「ゆらさん?って、すごく綺麗に食事するんだね、ゆっくりだし、きちんと味わってる。」

褒められたのか、なんなのか、わからないけれど返事はしようと思った。

「私、食べるのがとても遅いんです、小さい頃から。」

と、自分で言って、実ははっとした。

小さい頃の話をふられたら、なんと言おうかと。

養護施設で育ちました・・・となれば、みんなその、養護施設に興味を持ち、(かわいそうなゆらさん)になってしまう。

それだけは勘弁して欲しいと思い、下を向いた。

望美も気にかけてくれていたのか、すぐに話題を変えてくれた。

そんなことも全く誰も気にかけずに話題にのってわいわいしていた。


私は少しずつ、前を向いて、男性の顔が見れるようになってきた。

よこにずっといてくれてる望美もすごく楽しそうで。

望美はどちらかというと、すぐに顔に出るタイプだから、この場にいることが嫌だなと思ったら、手に取るようにすぐにわかる。

今はとても楽しそうなのが手に取るようにわかる。

先輩と先輩の友達がお手洗いにと席をはずした。

2対4だ。

怖気づくこともなく、望美は4人に話しかける。

それぞれにではなく、それぞれが答えやすい、話しやすい話題を出して、楽しんでいる。

よし、私も。と思うのだが、そうもいかず、望美だけをガン見する感じになってしまった。

先輩たちが席についた頃、望美がついてきてと目配せをしてきたので、一緒にお手洗いに向かった。


「ゆらちゃん、祐也くん、気に入ってるでしょ?」

バレてる、こんなことがわかるのは本当に望美だけなんだろうなと思う。

「うん、望美は?」

望美の顔を覗き込んだ。

お酒で顔が赤いのだろうけれど、この時の望美はなんというか・・・

照れてるのも手伝って、すごく乙女に答える。

「えっとねぇ、竹中さん・・・」

望美の真向かい向かって左・・・。

先輩の真向かいの人か・・・。

って、そう言えば、先輩の真向かいの人って先輩が好意を持ってて、この場を作ろうと言うきっかけになったんじゃなかったかな・・・。

そんなことを考えつつ、結局、先手必勝ってわけでもないだろうから、望美を応援しようと決めた。


私は祐也くん、望美は竹中さん、絶対今日は連絡先を交換すると、お互いに決起しあい、席に戻った。


この恋は盲目には絶対にならないと信じて。




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