第3話 親友と呼ぶべきヒト

「ゆらちゃん!!」

遠くから聞こえてきた声。

望美だ。


ぼーっとした頭で、状況を把握しようとするけれど、

どうも頭が働かない。

「ゆらちゃん、もうここ、閉店だって。帰ろ?」

あーーー、望美と、学生時代の話に花が咲いて、ぐびぐび調子よく呑んじゃった・・・。

「お水もらったから飲んで。」

渡されたグラスの模様なんて気にならないくらいに透き通った冷たい液体を喉に流し込む。

心なしかすっとした。


望美は中学、高校と、同じ学校で、いいことも悪いことも一緒にやってきたたった一人の親友だ。

親友というのは一人でいい。

私は両親のいないかわいそうな子だったらしい。

でも、そんな事関係ないとばかりに、ぐいぐいと距離を縮めてくれたのが望美だった。

望美には、両親も、妹もいる。

全く家庭環境が違い、色眼鏡で私を見る大人たちのことなんて関係ないとばかりに、望美や、望美の両親は私を可愛がってくれたのだ。

その感謝は今でもずっと感じている。


一気にグラスを空にして、自分のバッグから財布を出し、望美と会計を済ませて店を出た。


「ゆらちゃん、お母さんたちに会わないでそのままでいいの?」

望美は真面目な話をするときほど、目を合わせない。

店を出て駅まで歩きながら聞いてきた。

「んー、今まで存在を知らない人に、唯一心を許した男性、つまりは祐也と結婚しますって報告、いる?」

きちんと答えたつもりだった。

お酒の勢いで、ではない。それが本心なのだ。

「お父さんやお母さん、見つかって、ゆらちゃんに会いたがってたんでしょ?会いたかった娘に会えて、その上結婚もするなんて、嬉しいでしかないでしょ!」

望美はきっと絵空事を並べているのかと思うほどに、私の心は荒んでいるのだろうか。

今まで何の音沙汰もなかったのに、いきなりお母さんよ、お父さんだよ、DNA鑑定されて、親子だと言われても、もうピンとくるものがないのだ。

「それは望美の想いでしょ?私は・・・」

言葉に詰まった。人間はいきなり涙が出そうになる場面がたまにあると思う。今が、それだ。

その言葉に詰まることが、何が原因なのかは全くわからない。

いや、わかりたくない。

もうわかりたくないのだ。

「まだ、もう少し時間あるんだし、ゆっくりもしてられないだろうけど、じっくり考えてみなよ、話は聞くし、相談にものるから!」

どうやら私だけではなかったようだ。

望美もいきなり涙が出そうになったようだ。

本当は熱いなにかがあるんだと思う。

でも、それを認めたくないのかもしれない。

マフラーをしっかり巻き直し、反対方向に帰る望美とわかれ、終電が待っていてくれる駅に向かった。

そして、ふと思った。


さっきの熱い何かを認めたら、「負け」のような気がした。

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