第3話

「……え?し、死体ですか?」

「はい。どうやら殺人事件なんです」

 深刻そうな表情の亀。

「さ、殺人……」

 それは一大事だが…

「それで、どうして僕にその話を?」

「はい。この竜宮城には防犯カメラがあるのですが…」

「それに犯人の姿が写ってたんですか?」

「いえ、写ってはいませんでしたが。現場の宝物庫には監視カメラはないんです」

「宝物庫なのに?」

「はい。お恥ずかしい話ですが。」

「…で、もう一度聞きますけど、どうしてそれを僕に?」

「竜宮城にある監視カメラの映像や、従業員の話を聞いたりしたうえで確認などを行った結果、竜宮城にいるほとんどのお客や従業員のアリバイが確認されたんです」

「ほとんどが?」

 先ほどの時間でそんな確認を‥‥

「ま、まさかアリバイがないのが僕だけとか?」

 疑われているのなら困ったことになるのだが。

「いえ、あなたのアリバイは完璧ですよ。あなたは私と一緒にいましたからね」

 亀は僕の不安をまぎわらせるように言った。

「…それじゃあ、犯行があったのは僕たちが竜宮城に来てからなんですか?」

 亀の言ったことから察するとそういうことだろう。

「はい。とりあえず犯行現場にご案内いたします」

 警察の人間ではないのにいいのだろうか。

 疑問に思った僕をよそに亀が現場の宝物庫へと連れていく。竜宮城の入口を真っすぐ進み、三つ目の角を右に曲がり、さらに進んで四つ目の思わず見過ごしてしまいそうなくらいの細い廊下を左に曲がり、六つ目の一見壁と同化している扉を開けたら、そこに宝物庫があった。

 宝物庫に監視カメラがない理由が分かったような気がする。これだけ入り組んだところにあれば監視カメラも必要ないかもしれない。


 宝物庫の中は、名前から受ける印象とは遠く、少し荷物が多くて埃っぽいところだった。

「ここが宝物庫ですか」

「え~まあ~…あんまり掃除とか行き届いていないんですよね…」

 申し訳なさそうに亀が、厨房とかは念入りに掃除していますよ、と言い訳をしている。

「そ、それで死体というのは…」

 恐る恐る尋ねてみる。亀はあちらです、と前足を奥の方へ向ける。

 入口からは机などで隠れて見えなかったが、床の上に男の従業員がうつ伏せで倒れていた。

 死体からは特に出血などは見られず、死体の頭の近くに凶器と思われる花瓶が転がっていた。

「死因は頭部への打撃によるものじゃないかと考えられています。これは竜宮城の医務室の医師による見立てですけどね。内出血がひどいみたいで、それが死因だろうと」

 亀が淡々と説明を行う。そしてその途中、僕はあるものを見つけた。

「これって、割りばしですか?…二つに折れてますけど」

 死体の頭の近くに真ん中で二つに折れた割りばしが落ちていた。

「確か、さっきの浦島太郎の話でも折れた割りばしの話がありましたけど、それと関係が?」

「おそらく犯人がわざと置いて行ったものでしょう。あの窃盗事件での浦島太郎さんが説明した割りばしには理由がありましたが、今回は当てはまらないんです。それに、あの事件の時の割りばしの落ちていた場所も少し特殊でしたしね。…詳しい説明は省きますが」

 どうやら、竜宮城での窃盗事件の話を聞いた犯人が模倣しただけらしい。

「それで、宝物庫からは何か盗まれたんですか?」

「いいえ。確認しましたが、盗まれたものはありませんでした。どうやら犯人は宝物庫に侵入し、何かを盗もうとした時に従業員に見つかり、その場にあった花瓶で殴り殺害したみたいです。それで犯人は慌てて部屋に戻ったという事なんでしょう」

 亀がこれまででわかった事を説明してくれる。

「部屋に戻った…ということは、外部からの侵入者はないと?」

「はい。竜宮城には三つの扉があり、一つは非常扉で非常時以外はずっと鍵がかかっており、その鍵の保管は万全でした。正面の入口と従業員用の裏口がありますが、どちらにも監視カメラがあり、怪しい人物はいませんでした。それに、両方の入口には常に従業員がいますしね」

 確かに、入口の会計の場所に二人の従業員がいた。

「それで、こういう話を僕にしている理由というのは…」

 そう言いながらもなんとなくは想像ができていた。

「はい、監視カメラや従業員などのアリバイ確認により、この事件の容疑者としてあなたのお友達の三人しかいないんです」

「ずいぶんと限定できましたね」

「監視カメラに映らず現場まで行き、犯行を行えるのはあなた方がいた部屋しかないんです。そして、その部屋にいたメンバーでアリバイがあるのは、部屋に入ってからずっと私と一緒にいたあなたしかいません。他の三人はトイレなどで部屋を出ています。そういうわけで、あとの三人の中に犯人がいることは確実なんです」

 僕もこれまでの経緯を聞いてそれについて反論はないのだが……

「それにしても、ものすごいご都合主義というかなんといか……」

 と僕が言うと、

「いやーそれは仕方ないですね。あんまり長くなりすぎてもあれですし、作者の力量もありますし……」

 と亀は訳の分からない言い訳をしている。

「それでですね、警察が来る前にあなたが犯人を特定し、ぜひとも自首を進めて欲しいのです」


 と亀は真剣な表情でお願いしてきた。


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