第4話
僕が呼ばれた理由は分かったが、果たして僕に務まるのだろうか。とりあえずやってみるしかない。
「まあ、わかりました。……じゃあ、入口の従業員に話を聞いてもいいですか?」
入口の会計カウンターに従業員二人が座って待っていた。二人は僕たちが竜宮城にやって来てから一度もここを離れていないそうだ。
「えーっと、僕たちがやってきてから、ここを通った人のことを教えてくれますか?」
この質問をしたのは、三人が本当にトイレに向かったのかを確認するためである。三人ともトイレで部屋を出ているが、トイレはこの入口を通らないといけないのだ。
「お客様方がいらっしゃってからすぐ後に、四角太郎様が手ぶらで海底ロープウェイにお乗りになり、地上に戻られました」
四角太郎がお酒を取りに戻ったときのことだな。
「そしてまたしばらくしてから、ビニール袋を持った四角太郎様が戻られました」
ちなみに、この時点では事件はまだ起こっていないそうだ。この数分後に被害者の生きている最後の姿が確認されたそうだ。
「そしてこれからが犯行時刻の間のことですが、まず四角太郎様がトイレに向かわれました。四角太郎様が戻られてからしばらくしてから三角太郎様がいらっしゃいました。トイレに立ち寄った後、私共に竜宮城のスプレーに関して質問されました。」
なんでも三角太郎は、竜宮城が気に入ったみたいで、また来るためにスプレーを買っておこうと思ったらしい。
「三角太郎様が戻られた後、今度は丸太郎様がトイレに向かわれました。時間で言えば、丸太郎様のトイレが、一番時間がかかっていましたね」
少し腹を壊したみたいだ、と丸太郎は言っていたっけ。
とりあえず全員トイレには行っていたようだ。まあ、これですぐ犯人が分かるとは思っていなかったけど。
「三人ともトイレに行ってたみたいだけど…監視カメラでどれくらい時間かかったのかはわかるけど、僕たちがそんな時間覚えてないからなあ…」
「ええ、そうなんです。あなた方がお部屋の出入り口には監視カメラがないので、三人の内の一人が部屋を出てから宝物庫に行く、もしくはトイレに行った後部屋に戻る前に宝物庫に行ったとしても私たちには分からないんですよね」
犯行そのものにあまり時間がかかっていないみたいで、五分以内でも十分犯行が可能だそうだ。そして三人とも部屋を五分以上開けていたので、そこからも犯人を絞りこむことは出来ないようだ。
「指紋とか調べてないですよね?」
とりあえず思いついたので聞いてみた。まあ、そういうのは警察の仕事だとは思うのだが…
「あ、一応調べましたよ」
あっさりと言う亀。いや、竜宮城にいる医師が死亡推定時刻を調べていたので、まさかとは思っていたが……
「一応簡易ではありますが、指紋や血液、DNAを調べることはできますよ」
当然だと言わんばかりの態度だ。いや、指紋ぐらいならあるかなとは思ったが、DNAはやり過ぎだと思う。竜宮城がホントに飲食店なのか怪しくなってきた。
「それで、指紋とか出たんですか?」
「いいえ。凶器の花瓶は指紋が拭き取られていました。割れていたら拭き取ることは難しかったでしょうが、犯人にとって運のいいことに花瓶は割れていなかったですからね。血痕とかも特になく、犯人につながる物証は見つかりませんでした」
どうやら飲食店に似つかわしくない道具たちは全く役に立たなかったようだ。せっかく出てきたのにね。……というか、警察が来る前にそんなに詳しく調べていいのだろうか?
「入口の従業員さん以外に、三人を見たり、何か話したりした人はいますか?」
「いえ、従業員やお客様を含め、三人と関わったのは私か入口の職員のみです」
「そうですか……」
「それにしても……どうしてこんなことをしたんでしょうね。あの三人の中に盗みをしそうな人とかいらっしゃるのでしょうか?」
殺人の方は犯人も意図していなかっただろうが、窃盗のほうはどうだろう。
三人とはそこそこ長い付き合いだが、あいつがそんなことするはずがない、と言えるほど詳しく知ってもいないのが事実かもしれない。
例えば、丸太郎はお金に困ってることは知っているが…それだけで犯人とは言えない。もしかしたら、好奇心で宝物庫にやってきたやつが、宝物庫を見て思わず魔が差してしまったのかもしれない。
それなら三角太郎や四角太郎でも十分に犯人の可能性がある。
まあ、しかし……
「それで、どうでしょう?犯人はお分かりになりましたか?そろそろ警察が到着しそうですが…」
心配そうに亀が言ってきた。確かにだいぶ時間が経っている。
「そうですね。まあ、僕が言ったところですんなり認めるかどうかは分かりませんが、とりあえず自首するように説得してみますよ」
「え?それじゃあ……」
「はい、犯人がわかりました」
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