第48話メリュヴァン・レディオールの夢魔の悪戯

そうして病みつかれたのちに、私はベッドに倒れ伏し、ベッドサイドに並べられた画集の背表紙を眺め、それらを手に取ることもできずに、脳裏に浮かぶ作品たちの面影に想いを馳せていた。名前を忘れ去られた画家たちの手がけた、静物画の花々が咲きこぼれ、メリュヴァン・レディオールという画家の描いた、陰影を帯びた吸血鬼の絵画に、エルト・ルディスのタッチのバレリーナのトゥシューズが重なり、そうして立ち上がった少女の吸血鬼の像が、私に迫ってシーツの海へと埋もれさせる。少女の小さな足が私を踏みつけ、そのつま先に塗られたローズレッドのネイルを秘めた靴が痛い。私はうめいてなされるがまま、さながら影絵を踏んで遊ぶ子供のように無邪気な少女に痛めつけられるのだった。私の双眸から涙がこぼれ、室内に響くビジューレ・ロディオのピアノの短調の音色が流れるさなか、言葉はもはや切れ切れになって私の口をついて出ようとするが、その開きかけたくちびるに足先を押し込まれて言葉にならない。栗色の巻毛をベッドに波打たせて、身をふるわせて私は少女の足を掴もうとする。触れたら、殺す。少女は私を睨めつけて、ざっと闇色のドレスを翻して窓辺から飛び去ってしまう。あとにはただ朽ち果てた薔薇の花弁ばかりが残されて、ふわりと舞うその一枚を手に取ったところ、跡形もなく消え失せた。私は涙の跡を頬に残したまま、よろよろと身を起こす。口の中が、ほんのりと甘く香る。苦悶に満ちたうつくしい夢は終わりを告げ、月光が固く閉ざしたカーテンの隙間から差し込む中、私は本棚に背を向けて、ただロディオの音色に聴き入る。虫の音色が重なり合い、月の光はいよいよ冴えて、秋の夜は更けてゆく。


BGM:OLAFUR ARNALDS & ALICE SARA OTT/The Chopin Project

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