第40話水没都市を統べるもの

あの夏に見た精霊船は幻影だったのか、そこに飾られるべき影はもはや溶けて、煮沸した怒りも冷めてゆく。失われた憎悪ばかりが私を生かしていたのだと、気づくにはあまりに遅かった。十年の時を経て、痩せ衰えた私を駆り立てるのは、拒食の快楽ばかりで、飢えを以て良しとした先人もまた、飢餓のさなかに愉悦に満ちた浄土を夢想したのかと、死者を侮蔑してやまない愚かな身に、どうか罰をください。離別の苦しみはいつしか忘却へと追いやられて、そのうちにまだ夢を見る。もやがかったあなたの顔は別人のものと成り果てて私を責め立て、私の過ちを断罪してなお止まない。不孝という負債を負った私は、そのくびきを負って夜の底で膝を抱え、そのうちに延々と鳴り響く鐘の音を聞く。どこからか深夜に鳴り響くその音を求めて部屋から彷徨い出て、裸足のまま林に辿り着き、その奥にあるやしろへ辿り着いても、あなたはどこにもいない。不在の神が湧水となってその意思を示すとき、水は溢れ、街へと雪崩れ込み、私の部屋は水没してゆく。本棚の奥に朽ちた写真に、幼い日の私と、あなたの影が写っているのもひしゃげて、いよいよわからなくなる、あなたの顔の、瞳ばかりが、ああ、鮮明に、私に迫る。

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