第8話姫草ユリ子になれない

あなたの作ってくれたラーメンを啜って、ええとこれもまぼろしだっけ、ラーメンを作ったのは私で、あなたが愛しているのは中国思想で、あなたが飼うと見せてくれたエビが私であればいいのにと願ったのはあなたではない。ふたりの距離が癒着してひとつに溶け合っていくことを恐れて、また新たな罪を重ねることに怯えているのも私で、エビが全滅してしまいませんようにと願いながらも、彼らを妬んで残酷なことを考えずにはいられずに、きまってありもしない妄想であなたをなじるのも惑わすのも私であって、あるいは不浄な不安をひた隠しにしてぽんぽんとたわごとを投げかけて道化のように振る舞うのも私であってあなたではない。甘言を弄する医師の言葉に逆らって、魂と同じだけ、きっかり二十一グラムを一単位として、日々積み重なってゆく罪の重さに閻魔大王もおっつかないだろうから、できるだけ詳細を詰めて弁解を考えておかねばならない。白文を読めない私に罪状を読めるとは思えないのだけれど、きっと獄卒たちが書き下しで読み上げてくれる。数千年の時を越えてきた漢字の貴さをあなたは説いていたっけ。無才の私に益はない。三十年でもうたくさん。地獄で数多の女体とともに血に溺れ、のどの渇きを潤すようにうつくしい無数の乳房から血を飲んで、赤ちゃんに帰れたらこの罪も晴れるのでしょうか。

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