第8話姫草ユリ子になれない
あなたの作ってくれたラーメンを啜って、ええとこれもまぼろしだっけ、ラーメンを作ったのは私で、あなたが愛しているのは中国思想で、あなたが飼うと見せてくれたエビが私であればいいのにと願ったのはあなたではない。ふたりの距離が癒着してひとつに溶け合っていくことを恐れて、また新たな罪を重ねることに怯えているのも私で、エビが全滅してしまいませんようにと願いながらも、彼らを妬んで残酷なことを考えずにはいられずに、きまってありもしない妄想であなたをなじるのも惑わすのも私であって、あるいは不浄な不安をひた隠しにしてぽんぽんとたわごとを投げかけて道化のように振る舞うのも私であってあなたではない。甘言を弄する医師の言葉に逆らって、魂と同じだけ、きっかり二十一グラムを一単位として、日々積み重なってゆく罪の重さに閻魔大王もおっつかないだろうから、できるだけ詳細を詰めて弁解を考えておかねばならない。白文を読めない私に罪状を読めるとは思えないのだけれど、きっと獄卒たちが書き下しで読み上げてくれる。数千年の時を越えてきた漢字の貴さをあなたは説いていたっけ。無才の私に益はない。三十年でもうたくさん。地獄で数多の女体とともに血に溺れ、のどの渇きを潤すようにうつくしい無数の乳房から血を飲んで、赤ちゃんに帰れたらこの罪も晴れるのでしょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます