第7話無音の雪への祈り

月の館に住むというあなたの心臓の音を聞くのを待ちこがれて、この星に雪が降りしきり、やがて大地を白く埋め尽くすまで、あなたの恩寵は別の惑星に命が生まれて滅びることに注がれているから、異常気象ですべてのものが息絶えて、私が永久の眠りにつくまであと三千年、あなたのすがめの疲れきったまなざしがこの荒涼とした世界に向けられるまで、忘れ去られた祈りの言葉を口にしようとするけれど、意味を持たない言葉がやがて古文書の中へと消えてゆくまで、あるいは逸文にすら残されなくなるまで、あるいは言葉を唇から発するのをためらわれる時代が過ぎ去るまで、祈りは口元から出る前に、のどにつかえて、ついにこぼれないまま、私のこころのうちにある湖の奥深くに沈み、光すら及ばない水底にうずめられた、朽ち果てた木箱の中に詰まった無数のガラス玉のひとつとなる。

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