第11話

そして中佐の推測は当たった。助けが来て、彼等は外へ出た。            皆嬉しくて仕方ない。まだ撃ち合いは続いていたが、圧倒的に軍の勝ちだ。      ゲリラの、逃げた数人を追いかけた二人もいたが、殺して戻って来た。        それで、助けに来た援軍の所へ近づく時に、黒人兵は案の定嬉しそうに叫んた。    「やっと出られた!!やっと助けが来たぞー!!」                そんな事を言いながらも、こうももしつこく叫び始めた。              「全く、能無しの大佐の為によ〜!とんでもない思いをしたぞー!あのオカマ野郎が!!何回もカマ掘られてよ〜!!あのクソ野郎が!!」                「誰のせいだ!お前のせいだろう?!」、 「おい、お前もだろ?!」        「うるせー、俺は一回だけだ!何度もじゃねー。」                  そして、中佐に最初に呼ばれて殺す支持を受けた、三十代で、恐らく少佐か少尉だろう。彼が言った。              「そうか。大変だったな、黒ん坊!」   黒人兵は驚き、物凄い形相になった。   「何だと、この野郎!!」        この白人兵はわざと焚き付けたのだ。思った通り、黒人兵は怒り狂いながら彼へと向かって行った。               白人兵も向かって行く。本気だ。     黒人兵は殺気を感じた。他の兵隊も彼の元へ集まる。少佐もだ。           大佐は側にいない。中佐が彼を支えながら出て来て、離れた所に立たせるか座らせるかして、一寸待つ様に言いながら離れたからだ。                  援軍は、死体を確認したり中の小屋を調べたり等をしてうろついたり、何かをしたりしている。                 黒人兵は逃げようとしながら叫ぶ。    「てめぇ等、俺を殺る気だな?!ふざけるな!!」                そんな事をわめきながら走り、周りから追いかける兵隊達。             中佐が捕まえて押さえつけるがなんとか振り切られ、逃げられる。          違う兵隊が直ぐに走ってきて捕まえようとするが、これも上手くすり抜ける。     まだ20歳前半の、中では小柄な男だ。かなりすばしっこい。            彼は、少し離れた所にいる援軍の兵隊達の所へ走って行こうとする。         すると、一人のごつい兵隊が地面に落ちていた物を拾う。確か長い、長さが1メートル20センチはある様な鉄の棒だか木の枝だか何かだ。(恐らくは鉄の棒で、何かの道具だった気がする。)              これを持ち、斜め後ろから走ってきて、黒人兵の体に突き刺す。黒人兵の顔が引きつる。白人兵は又強く突き刺し、引き抜くと又突き刺す。                 この時には中佐やもう一人が戻って来て黒人兵の廻りに立つ。            黒人兵は凄く苦しそうな表情をしながら息を引き取り、そこに崩れ落ちる。死を上から確認する中佐と兵隊達二人。        「これでもう大丈夫だ。大佐の事は誰にも分からない。」               黒人兵の死体を、やりきれない様に悲惨な顔をして見下ろしながら中佐が呟く。    「そうですね。あんな事は絶対に分かっちゃいけない。」             「我々だけの秘密です。一生言いません。」「そうだな。」              そして援軍の方へと歩く。向こうからも皆が近寄ってくる。             少佐は大佐の元へと戻り、支えながらゆっくりと歩いて来る。            中佐は、まだ経験不足の黒人兵が、外へ出たら狂ってしまい、自分達を敵と間違えて襲おうとしたから仕方無いから殺した、と言った事を援軍の大将へ言う。そして相手も皆、納得する。                大佐は中佐から離れ、たどたどしい足取りで、ふらつきながら死んだゲリラ達の死体を一体ずつ見て確認する。特にリーダーの足元ではジーッと見ながら、とても複雑な表情をする。                 それを見て中佐が連れ戻しに来て、皆の所へと連れて行く。             皆は喜んでいる。救い出された生き残りの兵隊達と、援軍の皆だ。これから、少しそこで休んでから基地へ戻るのだ。       中佐は大佐へ言う。           「大佐、もう全て終わりました。我々は助かったんです。もう大丈夫です。だからもうあんな事は忘れましょう。我々は決してあんな事を口にしません。全て忘れます。だから、悪い夢を見たのだと思って大佐も忘れて下さい。」                  大佐は無言だが、やっとかすかに頷く。  そうして中佐も大佐から離れて、部下達の所へ行き、話しかけながら喜びを分かち合う。その時だ。               バンッ!!!!             凄い音がした。皆が驚き、静かになる。  中佐や仲間の兵隊達が廻りを焦って見回す。大佐がいない。          

「大佐?!」              中佐が大声を出しながら、音がした方へと走って行く。他の全員も後を追い、同じ方向へと走って行く。             音はあの小屋からだ!!         皆が小屋の中に集まり、下を見下ろす。  そこには、敵の死骸から取った小型の銃で、頭を撃ち抜いた大佐が倒れて死んでいた。 「た、大佐〜!!!!」          中佐がひざまずき、泣き叫ぶ。他の部下も唖然としながら大佐の死骸を見ながら泣き崩れる。援軍の兵隊達も悲しい顔で大佐を見つめる。                

 誰かが言う。             「とても立派な方だった。」と、口惜しそうに。                  そして場面はパッと変わり、すぐ周りの、 鬱蒼と生えた熱帯の太い木々が映る。   赤くて色鮮やかなオオムが映る。     オオムの鳴き声もする。南国の密林の音だ。その音が、丸で何事も無かったかの様に何度も聴こえてくる。            そう。確かに、彼等には何事も無いし、無かったのだから。             (完.)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最近嫌に思い出すあの映画 Cecile @3691007

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る